◎「たぎち(激ち)」(動詞)
「たきちり(滝散り)」。活用語尾は「り」が消音化し活用語尾T音の四段活用動詞化した。「たき」はその項(9月26日)。水が(滝壺のように)沸き返るように跳ね散る動態を表現する。そうした動態になること。「たき(滝)」という語は、古く、「たぎ」とも言ったと思われる→「山川のたぎつこころを(瀧情乎)」(万1383)。
「山川も依りて仕ふる神ながらたぎつ(多藝津)河内に舟出せすかも」(万39)。
「高山の石(いは)もとたぎち(瀧千)行く水の音には立てじ恋ひて死ぬとも」(万2718)。
「言に出でて云はばゆゆしみ山川のたぎつ心(當都心)を塞(せ)きしのびあり(塞耐在)」(万2432:最後の「塞耐在」は「せきあへにたり」、「せきそかねたる」、「せかへたりけり」その他、様々な読みがなされている。『類聚名義抄』の「耐」に「シノフ」の読みがある。これは「偲び」ではなく「忍び」。たぎつ心を塞(せ)き、しのんでいる、ということ)。
◎「たぎり(滾り)」(動詞)
「たぎち(激ち)」から生じ、その語幹を情況表現の語尾R音で表現したもの。「たぎち(激ち)」の情況になること。この変化は「限(かぎ)りて→限(かぎ)って」のような音便変化が逆行的に起こり活用語尾R音の情況表現化しているということでしょう。「たぎちて(たぎって)→たぎりて」ということ。
「たぎりて流れゆく水、水晶をちらすやうにわきかへるなど…」(『更級日記』)。
「煮えたぎり」。