「たき」「たけ」という動詞には様々なものがある。

 

・「たき(発生き)」。

「たち(立ち)」の「た」のように、「た」は発生を表現する。自動表現。 「たき(滝)」(「たききき(発生き聞き)」)の「たき(発生き)」がこれであり、「たき(滝)」は「わききき(沸き聞き)」のような意。その水流は水が沸き立つようになり水音が響く。 「たかれ(集れ)」は「たきあれ(発生き荒れ)」。何かが(多数)発生し全体が荒れた(荒廃した)印象になる。「蛆(うじ)たかれ」といった表現。この語は「たかり(集り)」に活用が変化する。 「たけ(猛)」はこれによる「たきえ(発生きえ)」。語末の「え」は驚きを表現する発声。人に驚くべき発生感(勢ひ感、と言ってもいい)があることを表現する。「たけを(猛男)」、「たけし(猛し)」(形ク)、「たけだけし(猛猛し)」(形シク)。動詞「たけり(猛り)」はこの「たけ(猛)」の動詞化ですが、意味的に(その用いられ方として)「たけび(猛び)」の影響も受けている。

・何かに動態的発生感を生じさせる他動表現の「たき(発生き)」もある。「大船を荒海(あるみ)に漕ぎ出で彌(や)船(ふね)たけ(八船多気)我が見し子らが目見(まみ)は著(しる)しも」(万1266:これは船を煽(あふ)りたて勢ひづかせるように漕ぎすすめている。この「たけ(多気)」は「たき(発生き)」の已然形。行かねば、とう思いで力をこめ船を煽(あふ)る。しかし、「我が見し子」のまなざしが浮かぶ。戻りたい…、という歌)。万4154に「野に馬だき(太伎)行きて」という表現がある。これは「たたき(手発生き)」であり、手綱を操りつつ馬を走らせることでしょう。

 

・「たき(炊き・焚き)」。

この「た」も発生感を表現する。他動表現(つまり「たき(発生き)」の他動表現)。対象に発生感を生じさせる、対象になにかを発生させる。そこで発生するのは、熱や、光や、香りや、食欲を刺激する旨(うま)みです。「飯(めし)をたく」、「香をたく」、「おたきあげ(お焚き上げ)」、「焚火(たきび)」。

・この「た」による発生感は客観的であり、「た」にアクセントはない。

 

・「たき(高き)」。

「たか(総努果)」(その項)の動詞化。努力成果たる総量を生じさせること。何かをまとめ高めた状態にすること。他動表現。「たけば(多気婆)ぬれたかねばながき妹が髪(高(た)けば解れ高(た)かねば長き妹が髪)」(万123:この「たけば(高けば)」は已然形に「ば」。後世におけるような仮定表現ではない。髪をまとめているという条件では(髪をまとめていれば)、ということ。「ぬれ(解れ)」は、構成力が溶力化することですが、その項参照。この「たき」は長い髪をあげてまとめている。頭部にまとめた髪を意味する「たきふさ(高き房)」(「き」が音便化し落ち「たぶさ(髻)」)という表現もある。「振分けの髪を短(みじか)み春草を髪にたくらむ(多久濫)妹(いも)をしぞ思(も)ふ」(万2540:「春草」は「あをくさ(青草)」とも読まれますが、「わかくさ(若草)」でしょう。振分髪にしたら髪が短いので若草を加え増量したわけです)。「(漁で)網たき」は、網を引きまとめるようにする。

 

・「たけ(発生け・長け)」。

「た」は発生感を表現する。自動表現。事象・現象に秀でた(特徴的な)発生感がある。「日(太陽)たけ」(日が高くなった)、「日たくるほどに起き給ひて」(『源氏物語』)、「秋たけ」(秋が深まった)、「さ夜ふけてなかばたけゆく久方の月ふきかへせ秋の山風」(『古今和歌集』)、「年たけ」(高齢になった)。これらの「た」は「時(とき)がたち」(経過し)「日(ひ)がたち」(経過し)の「た」と同じ用い方です。「たけ(発生け・長け)」は活用語尾K音で客観的に確認されているのに対し、「たち(経過ち)」はT音で思念的に認められている。「彼は武道にたけ(長け)」は能力たる現象の発生感です。ものや、身体や、心情などの発生感も表現する。「着物のたけ(丈)」、「身のたけ(丈)」、「思ひのたけ」(思いの限り)。「湯屋の流し版(いた)のごとく己が心を常に磨きて諸(もろもろ)の垢をたけな人間一生五十年」(「滑稽本」『浮世風呂』:垢の発生、その、身の丈、のような溜り、それが人間の一生ということでしょうう)。

・つまり、「たき(発生き)」に自動表現・他動表現があり、自動表現「たけ(発生け)」がある。

 

・「たけ(炊け)」。

「たき(炊き)」(「たき(発生き)」の他動表現)の自動表現。「たき(炊き・焚き)」の自動表現は、21世紀ころは、「飯(ご飯)がたけ」以外にはほとんど用いられていないと思われます。「風呂がたけ」はほとんど言わないでしょう。薪で湯を沸かす「風呂焚き」をやらなくなっている。