◎「たき・だき(抱き)」(動詞)

「てたき(手高き)」。「て」は無音化している。音(オン)としては「たき」のような「だき」のような音だったかもしれない。「てたき(手高き)→たき」は、手(て)で「たき(高き)」(→「たき・たけ」の項)ということであり、手で何かをまとめ(容量を増すという意味も含め)高めること。原意は、赤ん坊を手で身へ寄せそのまま両腕で維持することだろう。この動詞は「いだき(い抱き)」、「うだき(う抱き)」、「むだき(む抱き)」といった様々な応用的表現がある。同じような動態を生じる対象は赤ん坊だけではなかったということである。ただし、後に一般化していく「だき(抱き)」はここでいう「てたき(手高き)→たき・だき(抱き)」がそのまま用いられているわけではなく、「いだき(い抱き)」「うだき(う抱き)」「むだき(む抱き)」の影響を受けそれを省略したような用い方がなされている。かといって、動詞「だき(抱き)」はそれらの語の語頭が落ちた後発的な動詞というわけではなく、「いだき(い抱き)」「うだき(う抱き)」「むだき(む抱き)」の基になった「たき・だき(手高き)」があるということである(それにより『古事記』歌謡4の「たたき(多多岐)」や「そだたき(曾陀多岐)」がある)。

「栲綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) あわゆきの 若やる胸を そだたき たたきまながり…」(『古事記』歌謡4:「ただむき」「あわゆき」「まながり」はその項。「たく(栲)」は別名「かうぞ(楮)」)。

 

◎「たぎたぎし」(形シク)

「たわきたわきし(田分き田分きし)」。「わき(分き)」は他動表現。泥沼を足で分け進むような思いであることを表現する。歩行進行において足が重い。歩行進行が難渋する。

「吾が心、恒(つね)に、虛(そら)ゆ翔(かけ)り行(い)かむと念(おも)ひつ。然(しか)るに今吾が足得((え)步(すす)まず、當藝當藝斯玖(たぎたぎしく)成(な)りぬ 自當下六字以音」(『古事記』)。