◎「そむき(背き)」(動詞)
「そむき(背向き)」。「そ(背)」はその項。「そ(背)」は前との対位関係で「逆・逆行」も意味する。その意味の「そ(背)」による「そむき(逆向き)」。何かに対し期待動態とは逆の、期待動態に否定的な動態になること。
「かへるさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ」(『竹取物語』:後ろを振りかへりとまるということ)。
「例の(常のままに)、いらへもせで背きゐたまへるさま、いと若くうつくしげなれば…」(『源氏物語』:こちらの期待動態に否定的な態勢でいる、ということですが、これは「世をそむき」でもあり、浮舟の出家の決意の深さを表現する)。
「…吾(あれ)をばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並びゐ 語らひし 心そむきて(曾牟企弖) 家離(さか)りいます」(万794:死んだ妻を思っている歌)。
「王にそむく」。「教えにそむく」。「世にそむく」が隠遁生活をしたり出家したりすることを意味する。
◎「そむけ(背け)」(動詞)
「そむき(背き)」の他動表現。なにかを期待動態とは逆の、それを否定する、動態にすること。
「火ほのかに壁に背け、………………今宵ばかりやと、待ちけるさまなり」(『源氏物語』:燈火を通常の期待動態を否定する方向へ向け、それは壁に向けられた。これは、後世で言えば、寝室の明かりを薄暗くする行為)。
「枕にありし膝丸(刀剣)を。抜き開きちやうと切れば。そむくる所をつゞけざまに。足もためず。薙(な)ぎ伏せつゝ」(「謡曲」『土蜘蛛』:刀剣の動きに期待逆行する、これを否定する、動態になった。つまり、身をかわしこれをそらした。ちなみに、身をそらしたのは化生のものたる蜘蛛)。
「あまりの惨状に目をそむける」。