◎「そくひ(続飯)」の語源

「ソクいひ(束飯)」。「ソク」は「束」の呉音。「束(ソク)」の原意は、縛(しば)る、ということなのですが、これが、まとめる、という意味にもなり、「束帯」(帯をしめ正装する)、「束髪」(髪を結い整える)、「束裳」(装いをする)、「装束」(みじたく。礼服)といった表現もあり、無秩序を正し全体を美しく整えるという意味がある(→「御装束などし給ひて…」(『宇津保物語』))。「ソクいひ(束飯)」は散乱する飯粒を練って一つにまとめ上げたものでもあり、それにより布(衣服)にいわゆる「のりづけ(糊付け)」をおこない衣服を皺のない折り目正しい秩序化されたものにするものでもある(「のり(糊)」の元来の用途は服の成形です)。そうした「ソク(束)」になった、そして衣服を「ソク(束)」にする、飯(いひ)が「ソクいひ(束飯)」。具体的にはこれは飯(いひ)を練りつぶしたものであり、そのために用いる道具を「そくひいた(続飯板)」「そくひべら(続飯箆)」という。この箆(へら)で飯粒を練りつぶす。「そくひいた(続飯板)」は短冊紙ほどの大きさだそうです。これは「のり(糊)」とも言い、紙相互などの接着にも用いた。文(ふみ)は「そくひ」で封緘したりした。

「海松(みる)とかき付けて、あかきぬすこし、白きぬを、縫目はなくて、續飯(そくひ)などして、海松(みる)のやうにして、一折櫃(ひとをりびつ)」(『宇津保物語』)。

「遠き所より思ふ人の文(ふみ)を得て、固くふん(封)じたるそくひなどあくるほど、いと心もとなし」(『枕草子』)。

 

◎「そぐひ」(動詞)

「そげくはぬ(殺げ食はぬ)→そぐはぬ」が「そぐひ」の否定と受け取られ生じた動詞。この動詞は、「そぐひて」といった用い方ではなく、多く、「そぐはぬ」といった否定表現で現れる。

「そげくはぬ(殺げ食はぬ)」の「くひ(食ひ・交入ひ)」(→その項・2021年11月9日)は、対象との侵入感を表現しますが、この場合は、入(はい)る、受け入れられる、のような意。「そげ(殺げ)」は人の性格が変わっていたり、ひねくれて偏屈であったりすることも意味する「そげもの(殺げ者)」などのそれであり、「そげくはぬ(殺げ食はぬ)→そぐはぬ」は、殺(そ)げていて入らない・受け入れられない、ひねくれて偏屈であったりする印象であり受け入れられない、全体が整った調和感がない。の意。それが動詞「そぐひ」の否定表現と思われたということは、「そぐひ」の意味は、そぐはないことが無いこと、すなわち、整っていて合っていること、ということになるでしょう。この語は「そごひ」にもなる。これは「そげくはぬ(殺げ食はぬ)→そごはぬ」もあり、そうなったのでしょう。「げく」のE音とUの連音はU音になるかO音になるか微妙ということ。

「(狂は)気の高上にして人にそぐはぬを云ふ」(『巵言抄(シゲンセウ)』(1620年))。

「惣じて若衆と猫のふるびたは人に属(ソグ)はぬものなれば」(「談義本」)。

「着物がそぐふ」(「方言」)。

「Sogoi(ソゴイ), ô(ゴウ), ôta(ゴウタ). ………Vt,Fitoni(ヒトニ) ſogouanu(ソゴワヌ) mono(モノ)…」「Sogvi(ソグイ),gu(グウ), ſoguuanu(ソグワヌ). Idem(同上).No cami(カミで)」(『日葡辞書』:Sogvi(ソグイ)にある「No cami(カミで)」は、社会の上層社会で、ということでしょう)。