◎「せり(芹)」

「せへり(瀬縁)」。瀬の縁(へり)、水辺でよく見かける植物であることによる名。植物の一種の名。春の七草の一。「せりつむ(芹摘む)」という、恋心を抱く人に思いを伝えたい、その心情を表現する慣用句のような表現がある(思いはとげられていない)。昂(たか)まる恋心が「瀬(せ)」であり、「逢ふ瀬(あふせ)」の「瀬(せ)」でもあるのでしょう。

「大夫(ますらを)と思へるものを太刀(たち)佩(は)きて可爾波(かには:地名)の田居に芹(せり:世理)ぞ摘みける」(万4456:これはこの前の万4455に応えた歌)。

 

◎「せり(迫り)」(動詞)

動態勢力の昂進(たとえば「せめ(迫め・責め・攻め)」(その項)にあるような)を表現する「せ」の動態情況になること。つまり「せき(急き)」「せめ(迫め・責め・攻め)」などの「せ」と同じ「せ」ということなのですが、それが情況を表現するR音の活用語尾になっている。その結果、人を急(せ)き立てたり自分が急(せ)いたりすることを表現する「せり」も表現として不可能ではありませんが、主に客観的対象を主体とした表現がなされる→「舞台がせりあがる」。何かにかんし多くの動態勢力が昂進する、相互に影響しあいつつ昂進する情況動態になることも「せり」という。たとえば何かにかんし、これを買いたい人が集まり、競い合うように値を言い、買い手を決める情況動態になる。いわゆる「せりうり(競り売り)」。

「忠兵衛気をせいて花車(クヮシャ)はなぜをそいぞ、五兵衛、往(いつ)てせつてくれと立(たち)に立ち急(せき)けれども…」(「浄瑠璃」『冥途の飛脚』)。

「両チームが優勝をせりあふ」。

「これを望みはないかないかと糶(せ)りければ、六匁三分五厘づゝに落ちける」(「浮世草子」『世間胸算用』:これは競売(せりうり))。

 

◎(おまけ)「あせり(焦り)」(動詞)

「あしせり(足迫り)」。「せり」は勢いの増強感が生じる情況になることですが、足だけがそうした動態になり全身は思うように進まない(前進しない)。そんな動態にあることを表現する。「あがき(足掻き)」のように「あ」の一音で足(あし)が表現された可能性もある。これはある場合の馬の状態から生まれた表現かも知れない。

「沛艾 ハイカイ アセル ヲトリアセル(躍り焦る)」(『色葉字類抄』)。

「娑婆にゆゝしく憎(にく)きもの、法師のあせる上馬(あがりうま)に乗りて、風吹けば口開きて…」(『梁塵秘抄』)。

「あせる ………急(セ)キテ心ヲツカフ。苛(イラ)ツ。焦心」(『言海』(1889年))。