「せめ」は動詞であり動態勢力が昂進していることを表現する(→「せめ(迫め・責め・攻め)」の項・6月27日)。「て」は助詞ですが、「せめて」には「せめつへ(迫めつ経)」(A)と「せめとへ(迫めと経)」(B)がある。また、「せめとへ(迫めと経)」(B)には「と」に現状の思念的確認(それによる強意表現)があるそれ(B1)と(何らかの内容の)想念的思念的確認があるそれ(B2)がある。

 

・(A)「せめつへ(迫めつ経)」の「つ」は、歩きつつ、のそれのように、動態の持続・連動を表現し、「せめつへ(迫めつ経)→せめて」は、動態が急迫しつつ何らかの動態があることが表現される。

「女、……恥かしくいみじけれど、せめてのたまへば」(『宇津保物語』)。

「さだかには見え給はず……透きて見え給ふをせめて絶え間に見奉れば」(『更級日記』)。

「大臣も、思ししさまかなふと、下には思せど、せめて知らず顔をつくりたまふ」(『源氏物語』:考えていたとおりだと心の中では思ったがつとめてそしらぬ顔を作った)。

 

・(B1) 「せめとへ(迫めと経)」の「と」は思念的に何かを確認し、動態勢力昂進が思念的に確認され、この確認が強調として作用しつつ、動態や心情に客観的に勢力昂進が感じられることを表現する。

「四十ばかりの僧のいときよげなる………あざやかに装束(さうぞ)きて…せめて陀羅尼を読みゐたり」(『枕草子』「一本」:急迫し窮まったようになって読んでいるわけではない。自覚反省で途切れたりすることなく一心に読まれている。「装束(さうぞ)き」は「装束(さうぞく)」そのものの動詞化であり、装束(さうぞく)を身にまとうこと)。

「人やあるともおぼしたらで、せめて弾き給を、きこしめせば」(『大鏡』)。

「ただの御美しさの、せめておどろくべくもなき御けしきに」(『たまきはる』(『健寿御前日記』))。

「時をいつとはわかねどもせめてわびしき夕暮れは…」(『平中物語』:胸に迫るようにわびしい。せめて+形容詞、の場合、たとえば、迫めつ赤い、は奇妙な表現になる。これは「せめ(迫め)」と赤い)。

「せめておそろしきもの、夜鳴る神、近き隣に盗人の入りたる」(『枕草子』)。

 

(B1) 「せめとへ(迫めと経)」の「と」は思念的に何かを確認するが、それは想念的な何かです。動態や心情に想念的ななにごとかの急迫感が感じられることを表現する。

「ぜひなく位を押し取られ給て、せめて廿年の御宝算(年齢)をだにも保たせ給はず」(『保元物語』)。

「忠言をこそえ言はずとも、せめて讒言を吐くな」(『伊曾保物語』)。

「直接会わなくても、せめてメールくらい打ったら?」。