◎「せまし(狭し)」(形ク)

「せま」は「せま(狭間)」。「せ(狭)」(6月3日)と「ま(間)」はその項。圧迫的障害感のある限定域。意味は「せばし(狭し)」(その項・6月20日)によく似ており、「せばし(狭し)」が俗に簡略化されたような表現。「せまい部屋」のように、空間に余裕やゆとりがないことも言いますが、人の性格や人間性に寛容が感じられない場合や、社会的な意味で環境の自由性に障碍が生じている場合なども言う。「心がせまい」。「せまい料簡(考え)」。「肩身がせまい」。

 

◎「せまり(迫り)」(動詞)

「せめあり(迫め有り)」の独律動詞化。「せめ(迫め・責め・攻め)」の情況があること。「せめ(迫め・責め・攻め)」は動態勢力が昂進すること(その項)。

「時(とき)に孕月(うむがつき)已(すで)に滿(み)ちて、産(こう)む期(とき)方(みさかり)に急(せ)まりぬ…」(『日本書紀』)。

「死は前よりしも来たらず、かねて後(うしろ)にせまれり」(『徒然草』)。

「レポート提出の期限がせまる」。「借金の返済をせまる」。

「明タル朝(アシタ)我子ノ悲(カナシミ)ニ責(セマツテ)父母、鬼王ノ塚ニ行テ…」(『私聚百因縁集』:この「悲(カナシミ)ニ責(セマツテ)」の「ニ」は、目標点を表現するわけではなく、いわゆる副詞的な、動態を形容する助詞の「ニ」であり、悲しみの状態でせまる(動態が昂進する)。「鬼気せまる」を「鬼気にせまる」と表現するようなもの)。「…くよくよと寝られぬ耳に暁(あかつき)の鐘の数へて待明かす恋と意気地に迫りては粋な小梅の名にも似ず…」(「人情本」『春色梅児誉美』)。「演技が真にせまる」。

 

◎「せまり(狭り)」(動詞)

「せめ(狭め)」(その項:「せめ(迫め・責め・攻め)」ではない)の自動表現。障碍感が生じる情況動態になること。物的にだけではなく、社会情況(たとえば経済情況)などにかんしても言う。この語、一般に、独立の動詞としては評価されておらず、「せまり(迫り)」(その項)として扱われている。

兄(このかみ)高樹(たかき)に緣(のぼ)る。則(すなは)ち潮(しほ)亦(また)樹(き)を沒(い)る。兄(このかみ)既(すで)に窮途(せま)りて、逃(に)げ去(さ)る所(ところ)無(な)し」(『日本書紀』:活動の自由に障碍が生じている。いわゆる、進退窮まる、という状態)。

「道迫(セマ)りて、而も敵の行前(ゆくさき)難所なる山路にては、かさより落し懸て、透間もなく射落し切臥せける間、敵一度も返し不得、只我先にとぞ落行ける」(『太平記』:これは、道が、存在動態とでもいうようなものが増進し、迫って来るわけではなく、道が道幅が狭くなり(進行に障碍が生じ)、たよりない道になっている)。

「『…せまりたる大学の衆とて、笑ひあなづる人もよもはべらじと思うたまふる』」(『源氏物語』:これは生活が窮迫しているということでしょう)。

「Xemari(セマリ),ru(ル),atta(マッタ).  ……………¶ Mizzuga(ミズガ) xematta(セマッタ).  Faltar a agoa com seca,&c(干ばつなどで水が欠乏する)」(『日葡辞書』:洪水などで、水が迫ってくるわけではない。もちろん、そういう意味での、水がせまった、という表現もありうる)。