◎「せせらわらひ」(動詞)
「せせりはひわらひ(せせり這ひ笑ひ)」。「せせり」はある人その他に刺激的に作用すること(その項)。「はひ(這ひ)」は情況感が動態感をもって作用する(その項)。「せせりはひわらひ(せせり這ひ笑ひ)→せせらわらひ」は、ある人その他に刺激的に作用する情況感が動態感をもって作用する笑ひをあらわすこと。つまり、ある人などを刺激しその昂奮を昂進させるような笑いをあらわすこと。「せせわらひ」という表現もある。これは「せせりわらひ」の「り」の無音化。
「平次景高(かげたか)せゝら笑ひ、どいつもこいつも吼(ほへ)づら、ハテ気味のよい事の、…」(「浄瑠璃」『平仮名盛衰記』)。
「大きな嘘つきとせせわらひ」(「浮世草子」『武道伝来記』)。
◎「せせり」(動詞)
「せせり(狭迫り)」。「せ(狭)」は障碍感のあることを表現する(→「せ(狭)」の項・6月3日)。「せり(迫り)」は動態勢力を昂進する情況をあらわすこと(→「せ(瀬)・5月31日」や「せき(急き)」など参照)。つまり、「せせり(狭迫り)」は、障碍感のある動態勢力を昂進する情況をあらわすこと、ということなのですが、どういうことかというと、障碍感のある、制限的・限定的な動態勢力の昂進が表現される。たとえば、限定的な小さな部分にこれを刺激するような動態を作用させる(「Xexeri(セセリ), u(ル), etta(セッタ). ……………… ¶ Mimi(耳), I(あるいは), fanauo(鼻を) xexeru(せせる). Esgarauatar as orelbas,ou narizes(耳や鼻を掻く)」(『日葡辞書』))、身体を刺激する虫が作用する(「蚤(のみ)、蚊にせせられて眠らず」(『奥の細道』))、ある人その他に刺激的に作用する(「小松の城をせせりなば、味方のせい(勢)を引き入るべし」(『諸家前太平記』))。「…と言はれても、柳之助は怫然(むつつり)として返事もせずに、鉢の物を撈(せせ)つてゐる」(『多情多恨』尾崎紅葉:小鉢を、箸でつつくようになにかを漁るような仕草をしている)。
「ぜぜり」という似たような語がある。これは「せにせり(狭に迫り)」。これも障碍が生じつつ動態が昂進しており、これは言語動態に関し言われ、言語が痞(つか)えるようになったり、さらには吃音になったりということを表現する。「ぜぜくり」(6月12日)に意味は酷似している。