「ずゆるし(「~ず」緩し)」。「ず」は否定を表現する助詞。「ず(「~ず」)」は、「~ず」と、「~」で表現される何らかの動態や自己のあり方を否定し、自己禁止すること。この場合はそれにより、自己抑制すること。それにより自己の正しさ、公正さを維持しようとすること。「ずゆるし(「~ず」緩し)」すなわち、「~ず」が緩(ゆる)い、その構成力が弛緩している、とは、そうした禁止や抑制が働かず、不正、不公正へと抵抗なく、あるいは、抵抗弱く、進むこと。それは、悪(わる)い、のではなく、「~ず」が緩(ゆる)い。それは、だらしない、や、抑制がはたらかず、ひどい、のような意味にもなる。
「『己等(うぬら)が親父(おやじ)がずるい事計(ばか)りしやァがつたから、ころしたのだわへ、それがわりィか』」(「滑稽本」『花暦 八笑人』(1820~49年))。
「たまにやァ淫婦(ずるい)のもあるだらう」(『西洋道中膝栗毛』)。
「DZURUI(ズルイ),―ku(ク),―shi(シ), ズルイ,a. Cheating(だまし),knavish(不正で),shirking and imposing one's work on others(仕事を避け、なまけたりほかの人に負わせたりする),slow(のろい),lazy(怠惰),idle(なまけている). ―yatsu(ヤツ) da(だ),a knavish fellow(不正なやつ). Dzuruku suru,to cheat(だますこと),to be lazy(怠惰になること)」(『和英語林集成』)。
「老母『さうはさせぬ』
ト(老母が後五郎とお波を)隔てる。面倒なと(後五郎が)抜打ちに一太刀斬る。………………是れより老母をずるく殺し、止(とど)めを刺す」(「歌舞伎」『千代始音頭瀬戸』:抑制などはたらかない状態で殺した)。
「『そうら解った、私(わたくし)は去日(このあいだ)からどうも炭の無くなりかたが変だ、如何(いくら)炭屋が巧計(ずる)をして底ばかし厚くするからってこうも急に無くなる筈(はず)がないと思っていたので御座いますよ…』」(『竹の木戸』(国木田独歩):これは「ずるし」の語幹)。
方言では、(結び方が)ゆるい、動作が鈍い、約束を守らない、怠慢でだらしない、(男女関係のことで)だらしなく、いやらしい、といった意味で「ずるい」が言われる。