◎「すみれ(菫)」

「すみいりいえ(済み入り癒え)」。「~いり(入り)」は、驚き入り、などのそれのように、まったく何らかの動態になること。事が完全に済み、ほっとし安堵しているもの、の意。これは植物名ですが、その、花を下へ向け曲がったような花茎による、(肩の力が抜け頭がさがったような)その全体の姿形の印象による名。首を下げてホッとしているような花ということです。

この語の語源は、花の形が(容器たる)墨(すみ)入(い)れ(大工道具たる墨壺(すみつぼ))に似ているからとするものが一般的と言っていいほど多い。しかし、特にこの植物の個性を表現するような似方をしているでしょうか。「すもうとりぐさ(相撲取り草)」といった別名もありますが、これは、子供が、前記の茎の曲がった部分をかけ、どちらが勝つか引きあって遊んだことによる。

「春の野にすみれ(須美禮)つみにと来(こ)し我れぞ野をなつかしみ一夜宿(ね)にける」(万1424)。

「菫菜 …………和名須美禮」(『和名類聚鈔』:この語は本書の「蔬菜部・野菜類」にある。「草木部・草類」にはない)。

 

◎「すむやけし(速やけし)」(形ク)

「すむやはかえし(済むや、努果歓し)」。「はか(努果)」は努力の成果。形容詞「えし(歓し)」はその項(2020年8月17日)。事が済むやいなや事処理の成果効率よく、事が済んだらただちに、という表現。

「他国(ひとくに)は住み悪(あ)しとぞ言ふすむやけく(須牟也氣久)早(はや)帰(かへ)りませ恋ひ死なぬとに」(万3748:最後の「~とに」は、(事態進行の)そういう程度に、そういうレベルに、ということであり、私が(あなたを)恋ひ死なぬうちに、ということ)。

「倊偬 ………須牟也介志又伊止奈志」(『新撰字鏡』(享和本):「いとなし(伊止奈志)」はなにごとかに忙殺された状態になっていること。暇なくなにごとかがある)。