「すふて(す捨て)」。何かとの関係廃棄を表現する動態は「ふて(捨て)」が原形でしょう。「ふて」が、「ふ」による遊離・離脱と活用語尾T音によるその思念的確認になっている(「ふ」による遊離・離脱にかんしては「ふり(生り・振り・遊離り)」の項。彼女にふられ、や、気が狂(ふ)れ、などの「ふ」)。「うて(捨て)」はその子音脱落。「すふて(す捨て)」は、その「ふて」に動感を表現する「す」が加わったもの。すなわち、「すふて(す捨て)→すて」は、動的・積極的に遊離・離脱した状態すること。独律した、自分とは無関係な状態にすること。
「秋七月(ふみづき)、東國(あづまのくに)の不盡河(ふじがは)の邊(ほとり)の人(ひと)大生部多(おほふべのおほ)、蟲(むし)祭(まつ)ることを村里(むらさと)の人に勸(すす)めて曰(い)はく、『此(これ)は常世(とこよ)の神(かみ)なり。此(こ)の神(かみ)を祭(まつ)る者(ひと)は、富(とみ)と壽(いのち)とを到(いた)す』。……………都(みやこ)鄙(ひな)の人(ひと)、常世(とこよ)の蟲(むし)を取(と)りて、淸座(しきゐ)に置(お)きて、歌(うた)ひ儛(ま)ひて、福(さいはひ)を求(もと)めて珍財(たから)を棄捨(す)つ」(『日本書紀』)。
「富人(とみひと)の家の子どものきるみなみ(伎留身奈美)腐(くた)し捨(す)つらむ(須都良牟) 𫃠綿(きぬわた)らはも」(万900:「𫃠」は「袍」と同字と言われる。ようするに衣(ころも)でしょう。「きるみなみ(伎留身奈美)」は一般に、着る身無み、と解されていますが。着(き)る身(み)に余(あ)み、でしょう(→「あまし(余し)」の項・2019年7月21日))。
「青き御衣(みけし)を………そに脱(ぬ)き棄(う)て(宇弖)…」(『古事記』歌謡5:うて)。
「吹棄(ふきうつる)氣噴(いふき)の狹霧(さぎり) 吹棄氣噴之狹霧 此云浮枳于都屢伊浮岐能佐擬理 に所生(う)まるる神を、號(なづ)けて田心姬(たこりのひめ)と曰(まを)す」(『日本書紀』:うて)。
「俄(にはか)に親この女をおひうつ(逐ひ捨つ)」(『伊勢物語』:うつ。追い払い投げ捨てるようにした、ということ)。
「されば、この水、熱湯(あつゆ)にたぎりぬれば、湯ふてつ。また水を入る」(『大和物語』:ふて)。
「その御ぬさを川にふてて」(『歌林四季物語』:ふて。原文「ふ」は「布」の変体仮名)。