◎「すす(煤)」

「すふしふ(巣伏し生)」。「す(巣)」は(人の)生活居住施設である→「す(巣)」の項(2月21日)。「ふし(伏し)」はその項参照。その「す(巣)」に(その「す(巣)」の内部に)、「ふす(伏す)」状態で、「す(巣)」と経験一体化するような状態で、生(お)ふ(生える)ような状態になるもの、の意。その生活居住施設(草葺きのものでしょう)内で火を焚くことによりその施設内側に燃焼産物たる黒色微粉末・炭素微粉末が付着し堆積する。それが「すす(煤)」。

「…とだる天(あめ)の新巢(にひす)の凝烟 訓凝姻云州須(すす) の、八拳(やつか)垂(た)るまで燒(た)き擧(あ)げ…」(『古事記』:「とだる」は、すべて豊かに満ち足りた、の意(その項))。

「炲煤 ……和名須々 灰集屋也」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「すし(煤し)」(動詞)

「すす(煤)」の動詞化。「すす(煤)」はその項参照。煤(すす)を受けた、あるいはそのような、状態になること。

「難波人(なにはびと)葦火(あしび)焚く屋の煤(す:酢)してあれどおのが妻こそ常めづらしき(目頬次吉)」(万2651:「めづらし」は、後世では経験が稀であることを表現することが一般的になっていきますが、原意は、心情が湧き上がり感嘆する状態になっていることを表現する。煤けた貧しい家だが、いつも妻に思いが湧いている、のような歌なのですが、難波(なには)、に、汝(な)には、が、葦(あし)、に、悪(あ)し、がかかり、妻の悪口を言った人でもいたのでしょうか。これは「物に寄せて思を陳(の)ぶる歌」だそうですが、歌が作られたくわしい事情はわからない)。