「すすひ(酢吸ひ)」。すっぱくなったもの、の意。酢味をつけた飯と魚介類の切り身によるある種の調理品の名。この語は「すし(酸し)」という形容詞だとも言われますが、形容詞終止形が名になるのは不自然でしょう。すしの原型は塩や飯(いひ)と魚介類をともに漬け、自然発酵により魚介類が酢漬け状態になったもの(酸化した酒につけたりもしたのかもしれない。そうした「すし」がいつごろどこで生まれたかは明らかではない)。後に、飯と一緒に発酵させ、この系統が和歌山の鮎の馴寿司(なれずし)のようなものになる。これが、酢の醸造も普及し、酢飯に酢でしめた魚介類をのせ、一晩ほど馴れさせた「おしずし」になり、その「おしずし」を包丁で切った一片を手で作ってしまおうとうことで握り寿司がうまれ、道端で屋台売りがなされた。それは江戸時代(1800年代最初期頃)のことです。鮨(すし)の材料は、古くは鮎や鮒といった川魚が多く、貝では鰒(あわび)・貽貝(いがい)が多い(『延喜式』の時代の話です)。鮪(まぐろ)を食べることが広まっていったのは十九世紀以降。鮪(まぐろ)は外洋性の魚であり、日常的に簡単にとれるわけでもなく、赤身の魚は腐敗もはやかった。十九世紀にはこれを醤油漬けにする保存がはじまったという。のちに「とろ」と言われるその脂身(あぶらみ)は当初は捨てて肥(こや)しにするようなものであったようですが、これがもてはやされるようになるのは第二次世界大戦後。「まぜずし」という語は古くは何種かの魚介類を交ぜた(すし飯と具材を交ぜるわけではない)をいったようです。「鰒(あわび)甘鮨(すし) 雑鮨 貽貝(いがひ)保夜(ほや)交鮨」「鮨鰒(すしあわび) 貽貝冨耶(いがひほや)交鮨… 貽貝(いがひ)鮨 雑魚鮨」(『延喜式 主計上』(900年代前半ころ))。後世では具材と酢飯を交ぜて「まぜずし」と言っているでしょう。「散(ち)らし鮨」は、言うまでもなく、具材を散らすから。「五目鮨(ごもくずし)」の「五目(ごもく)」は、雑多なもの、の意(→「ごもく(五目)」の項・2022年4月26日)。「鮨、鮓」といった漢字は、塩、粕、醤(シャウ・ひしお)などの、漬けダレに漬けた魚を意味する。「寿司」は音(オン)によさそうな字をあてた当て字。
「進上交易白貝内鮨壱斛伍斗」(『正倉院文書・寧楽遺文・尾張国正税帳(天平六(734)年)』:これは貝の酢漬けでしょう)。
「鮨 ………和名須之 鮓属也」(『和名類聚鈔』)。「鮓 ……酒志」(『新撰字鏡』)。
「大ナル鮎(アユ)三十許(ばか)り取テ返テ少々ニテクヒ候、ノコリハ鮨(スシニ)シテヲキ候」(『(米沢本)沙石集』)。