◎「すげ(菅)」
「すぐへ(直重)」。葉が直接に重なるように生え伸びることによる名。これはある草類の名ですが、植物学的に「すげ(菅)」と呼ばれる植物は多種あり、その形体も多種多様なのですが、この語は、歴史的に、「かさすげ(笠菅)」と呼ばれる笠などにされるそれによる名。この草類の葉は細幅で長く伸び、それにより笠が編まれたり蓑(みの)が作られたりする。語尾がA音化した情況化表現「すが」もある→「すがはら(菅原)」。植物の一種の名。
「…鶴(たづ)が鳴く 奈呉江(なごえ)の菅(すげ:須氣)の ねもころに 思ひ結ぼれ …」(万4116:「奈呉江(なごえ)」は富山湾岸)。
「菅 ……或作蕳 和名須計 草名也」(『和名類聚鈔』)。
◎「すげ(挿げ)」(動詞)
「すぎくけ(過ぎ潜け)」。「すぎ(過ぎ)」は透過すること。「くけ(潜け)」は侵入させ潜(もぐ)らせること。「すぎくけ(過ぎ潜け)→すげ」、すなわち、透過し侵入させ潜(もぐ)らせる、とは、貫通させることであり、意味発展的に、貫通させ何かを何かに装着する。
「心もとなきもの…………とみのもの(急に必要になったもの)縫ふに、なま暗うて針に糸すぐる」(『枕草子』)。
「水精念珠の朽ちて絶えにければ、御前に散りたりけるを、取り聚(あつ)めて、緒(を)うるわしうすげて…」(『打聞集(うちぎきシフ)』)。
「この国の人は一尺ばかりの矢にきりのやうなるやじりをすげてそれに毒をぬりて射れば…」(『宇治拾遺物語』)。
「下駄に花緒をすげる」(花緒、は、鼻緒、とも書く)。
◎「すげなし」(形ク)
「すげなし(挿げ無し)」。「すげ(挿げ)」はその項。その「すげ(挿げ)」がない。心に入りつながることがない。相手の存在自体を消し去るような対応になる。
「世のひがものにて、才のほどよりは用ゐられず、すげなくて身貧しくなむありけるを」(『源氏物語』:「ひがもの」は、関係に病変が感じられる者。人々にあまり相手にされなかったということ)。
「親聞きつけて、男(大徳)をも女(自分の娘)をも、すげなくいみじく言ひて、この大徳を寄せずなりにければ…」(『大和物語』:その人との人間関係を否定することを深刻に表現したわけです)。
「『せつかくお前(めへ)来(き)なさつたものを、満更(まんざら)すげなくもしられめへ』」(「滑稽本」『東海道中膝栗毛』)。
「無人望 スゲナシ」(『節用集』(伊勢本:一ページめに早稲田大学の蔵書印のあるもの):「人望」は一般に、人がよせる尊重、信頼、期待)。