「すく」の動詞化。この「すく」は「しうけゐ(為請け居)」。つまり、「すくと」(3月15日)や「すくすく」のそれ(それらにかんしてはそれらの項)。この「すく」はなにか(なにものかやなにごとか)が自己に帰属し容認した居(ゐ:あり方)になること。「すくひ(掬ひ・救ひ)」はその「すく」の動詞化であり、その「すく」の努力が現れること。その「すく」の努力情況になること。「すくひ」を受けた(つまり、主体の「しうけ(為受け)」によって受けられた)対象たるそのなにものかやなにごとかはその存在や存在のあり方が全的にその「すく」の努力情況にある主体に帰属し存在すべてをまかせたような状態になり(「シャベルで土をすくふ(掬ひ)」、「手で水をすくふ(掬ひ)」)、その対象が危機や困難にあれば自己の存在それをその主体にまかせることにより、その環境情況は一変し、危機や困難から逃(のが)れられたりもする(「水に溺れている人をすくふ(救ふ)」)。いうなれば、対象に対し「私にすべてをまかせろ」の状態になり、対象としてはすべてをまかせた状態になる。

「『師(いくさ)を乞(こ)ひ救(すくひ)を請(まを)すことを古昔(いにしへ)に聞(き)けり。……百濟國(くだらのくにのひと)、窮(せま)り來(き)たりて我(われ)に歸(よ)るに、……必(かなら)ず拯救(すくひ)を存(たも)てと、遠(とほ)くより來(きた)りて表啓(まを)す…』」 (『日本書紀』:「いくさ」は兵、すなわち軍隊のこと)。

「是(ここ)に、天皇(すめらみこと)、…………德(いきほひ)を布(し)き惠(うつくしび)を施(ほどこ)して、困窮(くるしくたしなき)を振(すく)ふ」(『日本書紀』「たしなし」は、不足による不安、緊張の回復の見込みはなく、絶望化していること)。

「中臣鎌子連(なかとみのかまこのむらじ)、人(ひと)と爲(な)り忠正(ただ)しくして、匡(ただし)濟(すく)ふ心(こころ)有(あ)り」(『日本書紀』)。

「能(よ)く三千大千世界の有縁の衆生を救(すく)はむ」(『金光明最勝王経』)。

「漉 ………渇也涸也盡也 志太牟 又弥豆(みづ:水)不留比又須久不 又与祢(よね:米)須久不…」(『新撰字鏡』:「したむ(志太牟)」は(たとえば米や豆などの)水をきることですが、笊(ざる)などに全的に引き上げ、放置する)。

「汲 …クム………スクフ 魚」(『類聚名義抄』)。「撜 ……タスク スクフ」(『類聚名義抄』:「撜」は『廣韻』に「救也,助也」とされる字)。

「人人(気絶した中納言の口に)水をすくひ入(いれ)たてまつる」(『竹取物語』)。