◎「す(素)」
U音の遊離感のある動態感、O音のような目標感・客観的に独立した存在感、ではなく、遊離した動態感、が、「つ」の音が持続感・継続感を表現するように、S音の動感に自由を与え、無障碍感となって表現される。この無障碍感は、純粋な、夾雑物・混じり気の無い、そのままの、といった意味になる(つまり、動態が自由であり、なんの障碍的影響も受けない)。「素」は慣用的当て字。
この語は「素(呉音、ス。漢音、ソ)」の音(オン)とされることも多い。「素」の原意は純白の糸や布(とくに絹)であり、なんの色にも染まっていない、どのような質にもなる、特定の質が始まるその前の状態、という意味で、「す」に意味も似ている。しかし、中国語にも「素手(ソシュ)」「素足(ソソク)」「素顔(ソガン)」といった語はあり、「素質(ソシツ)」「素材(ソザイ)」「素行(ソカウ)」その他、日本で「素」が表現される場合、それは「そ」になる。「すじょう(素性・素姓…)」は「すぢシャウ(筋姓)」でしょう。血統的筋(すぢ)たる族名。剣道で防具たる面をつけない状態を意味する「すメン(素面)」の「す」も日本語。「すで(素手)」、「すあし(素足)」、「すはだ(素肌)」、「すがほ(素顔)」、「すゆ(素湯)」といった語の「す」は日本語。この「す」は、ものとしてやこととして、異的要素のないそのままの、純粋な、といった意味にもなる。「すなほ(素直)」、「すもぐり(素潜り)」、「すラウニン(素浪人)」、「すカンピン(素寒貧)」(寒貧・貧寒は貧しいこと)、「すトンキャウ(素頓狂)」。
◎「す(為)」(動詞)
S音の動感とU音の時感の無い(遊離した)動態感による動感を表現する。これは文法的にはサ行変格活用動詞「し(連用形)」の終止形と言われる。U音の遊離した動態感に関しては「いく(幾)」の項(2019年11月12日)。
「我(われ)のみや夜船は漕ぐと思へれば沖辺の方に楫の音(おと)すなり」(万3624)。