◎「す(州)」

「ひしふ(干為生)」。「ひ」のH音は退行化した。「ひ(干)」は水分がなくなることであり、「ふ(生)」は発生すること、出現し、育つこと。「ひしふ(干為生)→す」は、水分がなくなるという動態にありつつ発生し育つこと、そうしたもの。もの、とは、この場合はそうした動態・状態にある土地の一部であり、そこが限定的に水分がなくなっているということはその環境部分、その周囲は水です。川、湖、海などの、土や砂が堆積し水上に現れ陸地となっている部分をいう。範囲的印象としては川、湖、海などに属している。しかし、部分的に陸地となっている。「すか」という地形名もありますが(→「よこすか(横須賀)」)、これは「すゆか(州床)」でしょう。「す(州)」が安定的に床(ゆか)のような状態になっている処。

この語の語源は「州(呉音、ス、漢音、シウ)」の音(オン)とされることが多い。「州」は『説文』に「水中可居曰州」とされる字であり、意味は似ている。ただし、中国語の「州」は人の集まるところであり、人の居住地。

「なつそびく(夏麻引)海上潟(うなかみがた)の沖つ洲(す)に鳥はすだけど君は音もせず」(万1176:「なつそびく」はその項。原文の「音」は一般に「おと」と読まれるが、これは「ね(音)」であり、「寝(ね)」がかかっているのだろう。鳥の鳴声を「ね(音)」と表現することは「万898、3390、4008、4398、4399」などにあり、これを「音(ね)」と表記することは「万2021、2137、2166、3336」などにある)。

「と(外)のうみはいといみじくあしく浪たかくて、いり江のいたづらなるす(洲)どもにこと物もなく…」(『更級日記』:「外(と)の海(うみ)」は、入り江や浦のような海ではなく、外洋へ広がっていく海)。

「州 爾雅云水中可居者曰州 李巡曰四方皆有水也…和名須」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「す(簀)」

S音の動感により対象に主体の動態進行感・通行感、すなわち透過感、があることを表現するもの。「すけ(透け)」の「す」。そうした印象を与える施設・道具。透けた印象のある「すだれ(簾・簀垂れ)」「すのこ(簀の子)」その他。

「さて又の夜の月をかしかりければ、簀の子にゐて、大空をながめてゐたりける程に…」「さてこの男、簀子によびのぼせて、女どもは簀のうへに集まりて」(以上『大和物語』(御巫本(みかなぎぼん)付載))。

「この男いたくすずろきて(意味のよくわからない動きをし)、 門近き廊(らう)の簀子(すのこ)だつものに尻かけて、とばかり月を見る(この男は懐から笛をとりだし、奏でる。すると簾のうちから琴の音が聞こえてくる)」「律の調べは、女のものやはらかに掻き鳴らして、簾(す)の内より聞こえたるも…」(『源氏物語』)。

「簾 ……和名須太禮 編竹帳也」(『和名類聚鈔』)。「簀 ……ス」(『類聚名義抄』:「簀」は『説文』に「牀棧也」と言われ、「牀」は「安身之坐者」と言われる字。ようするに寝転がったりするようなところ)。