◎「しわかみの」

「しひはかみの(強ひ努果見の)」。「ひは」のH音の連音がW音になっている。「しひ(強ひ)」は、後世では、一般に、意思Aが存在しないかのように無効化されつつ意思Bが有効に現実化していくことを表現する(AにBをしいる。AにBがしいてなにかをする)が、ここではそうした、いうなれば俗用的な、意味ではなく、原意たる、誰もがそれに従う、神の声といっていい、自然や宇宙の声が聞こえる状態になること(→「しひ(強ひ)」「し(助・副助詞)」の項・2022年12月11日)。「はか(努果)」は努力の成果であり、ある努力が経過しし果てる情況にあること・もの。「しひはかみの~(強ひ努果見の~)→しわかみの~」は、そうした、神の声、自然や宇宙の声の成果、それが経過し果て現れ現実として見る~、ということ。これは『日本書紀』にある表現であり、「しわかみの ほつまくに」と表現がつづく。

「昔(むかし)、伊弉諾尊(いざなきのみこと)此(こ)の國(くに)を目(なづ)けて曰(のたま)はく、『日本(やまと)は浦安國(うらやすのくに)、細戈(くはしほこ)の千足國(ちだるくに)、磯輪上(しわかみの)秀眞國(ほつまくに)。秀眞國、此云袍圖莽句爾』とのたまひき」(『日本書紀』神武天皇三十一年夏四月:「目」は、なづけて、と読まれていますが、み(見)、でしょう。「ほつま(秀眞:袍圖莽)」の「つ」は同動を表現する助詞であり、全体は、「ほ(秀)」たる「ま(真)」、すぐれた、全的に容認される、否定され廃棄されることのない、の意)。

 

◎「しわ(皺)」

「しひをは(廃ひ緒端)」。皮膚、とりわけ顔、においてその機能や力に衰えが生じた印象で現れる紐状の印象の、そして何かの端(はし)の印象の、もの。

「世間(よのなか)の すべなきものは 年月(としつき)は 流(なが)るるごとし ………………か黒き髪に いつの間(ま)か 霜の降りけむ………紅(くれなゐ)の 一云丹(に)のほなす 面(おもて)の上(うへ)に いづくゆか 皺(しわ:斯和)が来(きた)りし……………手束杖(たつかづゑ) 腰にたがねて か行けば 人に厭(いと)はえ かく行けば 人に憎(にく)まえ 老男(およしを)は かくのみならし たまきはる 命惜しけど 為(せ)むすべもなし」(万804)。

「皴 ……和名之和 皮細起也」(『和名類聚鈔』)。