「しろおひ(代追ひ)」。この場合の「しろ(代)」は、「のりしろ(糊代)」「のびしろ(伸びしろ)」のような、専作用域、のような意のそれ→「しろ(代・城)」の項(2月11日)。「~しろおひ(~代追ひ)→~しろひ」と言った場合、「~」は動態・動詞連用形であり、それは動態の専作用域を追う(追求する)。たとえば「言ひしろひ」と言った場合、「言ひ」の専作用域、いま話題になっていることにもっと言えるところ、はないかと追求する。たとえばある人の浮気が話題になれば、『そういえばあの人は…』『でもあの人は…』と複数の人がその話題に参加しその人たちがその人の浮気にかんし自分が話題に参加し得るさまざまなことを言う。それが「言ひしろひ」。この「しろひ」は常になんらかの動態に添えて言われ、独立ではもちいられない。多い表現は「言ひしろひ」ですが、「引(ひ)きしろひ」(お互いが自分の方へさらに引く域を追求する。つまり、引き合う状態になる)、「突(つ)きしろひ」(この「突(つ)き」は、人を軽く突き、あるいは、突くように、相手の関心を引いたりなにかへの注意を促したりすること)もある。

「物がたりのよきあしき、にくき所などをぞ定め言ひしろひ」(『枕草子(能因本)』:これは『枕草子』の「かへる年の二月二月廿五日」という書き出しの部分のものですが、「いひそしる」となっている『枕草子』もある)。

「桐壺には、人びと多くさぶらひて、おどろきたるも(目を覚ましている人も)あれば、かかるを(かくあるを)、『さも、たゆみなき御忍びありきかな』とつきしろひつつ、そら寝をぞしあへる」(『源氏物語』)。

(ひきしろひ)

「『さらば、もろともにこそ』とて、中将の帯をひき解きて脱がせたまへば、脱がじとすまふを、とかくひきしろふほどに、ほころびはほろほろと絶えぬ」(『源氏物語』:これは男同士がふざけあっているような場面でのものですが、服を引きあっている。この「ひきしろひ」という語は、心情が、たとえば進むことと戻ることの、逆方向の心情が働きつつものごとがすすんでいくことも表現する。つまり、ある人の思いが逆意と引きあいつつ自体がすすんでいく(進んでいく方向に視点をおいて表現すれば、後ろへ引く心情が働きつつ進んでいく)。「物も着あへずいだきもち、ひきしろひて逃ぐるかいとり(かきとり)すがたのうしろで」(『徒然草』:「かいとり(かきとり)すがたのうしろで」は、服の裾をつまむように絡(から)げ上げ(逃げるような)うしろ姿の様子。これは、宴などあった際、招かれたその家で泥酔し裸のようなだらしない姿で寝てしまい、朝、戸を開いた主人に見られ目をさまし、ひどい姿のまま、主人にわびる思いにひかれつつ慌てて帰っていく様子を言っている)。「平家は小松三位中将維盛卿の外は大臣殿以下妻子を具せられけれども次様の人々はさのみ引きしろふにも及ばねば後会その期を知らず皆うち捨ててぞ落ち行きける」(『平家物語』:これは落人(おちうど)として都を去っていく平家の様子を言っているものですが、妻子を連れていくことのできない者もおり、それに思いはひかれるがいつまでも躊躇してはおられず、ということです)。