◎「しろうと(素人)」
「しらひと(しら人)」、しらひと→しらうと→しろうと、という音変化。「しら」は常人態であることを表現するそれ→その項(1月19日)。ようするに、ありきたりの普通の人、ということです。Aにかんし「しらひと」であれば、Aにかんする専門性などなにも身についていない人。「しらびと」とも言う。
「『御不審候ふこと、もつともその謂(いは)れ候へども、まづおぼしめし候へ。ただのしら人が、強盗とみづから名乗て、命をまかせ参らせて、何のせんか候べき』」(『古今著聞集』:これは強盗が「私が強盗です」と役所に名のり出て言っているもの。「せんない」は、言葉もない、の意。つまり「何のせんか候べき」は、言いようもないひどい事態だ、の意)。
「ただしらうとの老人が、風流(フリウ)・延年(エンネン)なんどに身を飾りて舞ひかなでんが如し」(『風姿花伝』)。
◎「しろし(著し)」(形ク)
「しりよし(知り良し)」。浸透的影響効果が受容効果的であること。受容効果的であるとは、認知性として明瞭であること。それを表明するのが「しりよし(知り良し)→しろし」。色名「しろ(白)」を語幹とする「しろし(白し)」という形容詞(形ク)はもちろん別にある。
「『庭火しろくたきたるに、袴をたかく引あげて…』」(『宇治拾遺物語』:庭火を煌々と明るく焚いた)。
「重衡(しげひら)卿は………その日の装束にはかち(褐:濃い紺色)にしろう黄なる糸をもつて岩に村千鳥ぬうたる直垂(ひたたれ)に…」(『平家物語』:鮮やかな黄色)。
「春はあけぼの、やうやうしろくなり行く山ぎはすこしあかりて…」という『枕草子』冒頭の「しろく」は、白(しろ)く、か、著(しろ)く、か、「あかりて」は、赤(あか)りて、か、明(あか)りて、か、議論がある。