◎「しるまし(徴)」

「しれいままし(知れ忌ままし)」。「れい」のE音とI音の連音がU音になっている。「ま」は一音化。語尾の「~まし」は文法で言う反実仮想の助動詞「まし」というもの(文法的に言えば、動詞未然形につく。「~まし」はその項)。「知れ」は知る内容Bに視点をおいて表現すれば、知られ、になる→「しれ(知れ)」の項。すなわち、「しれいままし(知れ忌ままし)→しるまし」は、忌むことになるのでは、忌まわしいのでは、と思われること、という意味になる。不吉な予感を感じること、です。

「(百襲姫命(ももそひめのみこと)は)乃(すなは)ち其(そ)の歌(うた)の怪(しるまし)を知(し)りて、天皇に言(まを)したまはく。『是(これ)、武埴安彥(たけやすはにびこ)が謀反(みかどかたぶ)けむとする表(しるし)ならむ。…』」(『日本書紀』)。

 

◎「いろ(色)」・「いろ(同母)」・「いろは(生母)」の修正再記

(修正といっても、「ゆれ(揺れ)」が「ゆり(揺り)」に、「いれ(入れ)」が「いり(入り)」になっているだけです、ほかは何も変わっていません)

・「いろ(色)」

「ゆりほ(揺り火)」。「ゆ」の「い」への交替。「ゆり(揺り)」は自動表現。「ほ(火)」は「ひ(火)」の原型のような表現(語源は燃焼の擬態)。「ゆりほ(揺れ火)→いろ」は、揺れる火による光波長の変動、変動したその印象を表現したもの。

「いろ(色)」という言葉は非常に広汎な意味で現れる。この語を用いた慣用表現も非常に多い。「いろ(色)」をキーワードにして日本の文化論を一冊書けるほどです。それは感じ取られること、といった意味でも言われる→「ねには泣くともいろに出でめやも」(万301)。とくに、花やかさや情感の豊かさのようなものを表現する→「あづま人は……げには心の色なく、情おくれ…」(『徒然草』)。音声・音響さえ表現する→「ねいろ(音色)」「こわいろ(声色)」。それぞれの特性や種類も言う→「いろいろな品物」。表現されることに官能性があるということでしょう、後世では、男女間のこと(さらには性情動的なこと)も意味して用いられる。

「雪のいろを奪ひて咲ける梅の花」(万850)。

「しのぶれど色にいでにけりわが恋は…」(『拾遺和歌集』)。

「色っぽい」。「色事(いろごと)」。

色が映えたり映えさせたりすることを言う「いろひ(色ひ)」「いろへ(色へ)」という動詞もある。

 

・「いろ(同母)」

「いりを(入り緒)」。「を(緒)」に関しては「いも(妹)」の項参照。「いりを(入り緒)→いろ」は、同じ処(腹)に「を」が入って入る、という意味。男(兄弟)や女(姉妹)が同母であることを表す。「いろも(同母妹・同母姉妹)」「いろせ(同母背・同母兄弟」など。

「吾は天照大神(あまてらすおほみかみ)のいろせ(伊呂勢)なり」(『古事記』)。

「明日よりは二上山(ふたかみやま)をいろせ(弟世)と吾が見む」(万165)。

「阿治志貴高日子根神(あぢしきたかひこねのかみ)は……そのいろも(伊呂妹)高比賣命」(『古事記』)。

「沙本毘古王(さほひこのみこ)そのいろも(伊呂妹)に問ひて…」(『古事記』垂仁天皇)。

 

・「いろは(生母)」

「いりをはは(入り緒母)」。「を(緒)」に関しては「いも(妹)」の項参照。「いりをはは(入れ緒母)→いろは」は、その「を(緒)」が入って入る母(はは)の意。つまり、生みの母、です。では、「を(緒)」の入っていない母はあるのかという疑問もありそうですが、直接に自分の「を(緒)」の入っていない母はある(先祖たる母体です)。

「其の父(かぞ)母(いろは)の二(ふたはしらの)神、素戔嗚尊(すさのをのみこと)に…」(『日本書紀』:「父(かぞ)母(いろは)の二(ふたはしらの)神」とはイザナキノミコトとイザナミノミコト。『古事記』ではアマテラスオホミカミ(オホヒルメノムチ)やスサノヲノミコトは黄泉の国から戻ったイザナキノミコトの禊(みそぎ)の過程で生まれていますが、『日本書紀』には上記二神により「島生み」に続いて生まれるという話もある(『古事記』と同じ話もある))。

「天皇(すめらみこと)、大連(おほむらじ)に命(みことのり)して、女子(をみなご)を以(も)て皇女(ひめみこ)として、母(いろは)を以(も)て妃(みめ)とす」(『日本書紀』)。

「父母 ……父 加曽 母 伊呂波 俗云父 和名知々 母 波々」(『和名類聚鈔』)。