「しらぬひ(知らぬ日)」。知らない日(太陽)、ということなのですが、どういうことかというと、私は日(ひ)を知っている日(ひ)は私を知らない、ということ。おわかりになるであろうか。つまり、あの人は私を知らない。しかし、私にとってあの人は太陽。それが(あの人は)「しらぬひ(知らぬ日(太陽))」。その人にとって日は、太陽は、光のすべてであり、すべてをささげてこの人に尽(つ)くす。「あの人」が私を知らなくても尽(つ)くす。この表現が、「尽(つ)くし」に、同音の地名「筑紫(つくし)」に、かかる。

この語は一般に、語義未詳、かかり方未詳、とされている。ちなみに、九州の有明海や八代海に見られる怪しい光の屈折現象を「しらぬひ」と言いますが、これはこの枕詞の影響で生まれた「知らぬ火」という意味の語。

「天皇(おほきみ)の 遠(とほ)の朝廷(みかど)と しらぬひ(之良奴日) 筑紫(つくし)の国(くに)は 賊(あた)守(まも)る おさへの城(き)ぞと…」(万4331:「賊(あた)守(まも)る」は賊(あた)を守るわけではない。賊(あた)を監視し警戒する)。

「しらぬひ(白縫)筑紫の綿は身につけていまだは著(き)ねど暖(あたた)けく見ゆ」(万336)。