◎「しばし(暫し)」
「しまし(暫し)」の子音変化。→「しまし(暫し)」の項(下記)。
「しばし待たれよ」。
◎「しまし(暫し)」
「しめはし(締め端)」。(たとえば戸を)締めた(閉めた)端(はし)。そこにある極めて狭い・小さな、隙間(すきま)。その隙間ほどの時間の推移。少しのあいだ。この語は音が「しばし(暫し)」になる。「しましくも(暫しくも)」という表現もある。
「ほととぎす間(あひだ)しまし(之麻思)置(お)け汝(な)が鳴(な)けば吾(あ)が思(も)ふ心いたもすべなし」(万3785)。
「奈呉の海に船しまし(之麻志)貸せ沖に出でて波立ち来やと見て帰り来む」(万4032)。
「…しばし河のほとりにおりゐて…」(『古今集』詞書)。
「天(あま)つ風(かぜ) 雲のかよひぢ 吹(ふき)とち(ぢ)よ をとめ(乙女)のすかた(姿)しはし(暫し)ととめん(止めん)」(「百人一首」の一)。
「少時 シハラク 又シハシハカリ」(『色葉字類抄』)。
◎「しば(暫)」
「しばし(暫し)」(上記)「しばらく(暫く)」をその語頭二音で表現したもの。「しばし(暫し)」「しばらく(暫く)」に関してはそれらの項(「しばし(暫し)」は「しまし(暫し)」の、「しばらく(暫く)」は「しまらく(暫く)」の、濁音化)。「しば(暫)」の原意は、ほんの少しの間(ま)、ということですが、「しば待て」が、ほんの少しの間(ま)待て→少し待ってくれ、という意味になる。「しばさせ給(たま)へ」の「させ」は使役であり、少しの間(ま)をさせろ→少し余裕をくれ→少しまってくれ、ということでしょう。
「しばさせ給へとても(迚)さらば。暮るゝを待ちて月の夜声に。唄(うた)ひ給はゞわれも又。真(まこと)の姿を影(あらは)すべし」(「謡曲」『山姥』:「とても(迚)」は、といっても、のような意。「迚」は中途で行きつ戻りつすることをあらわす和製漢字)。