◎「しぼみ(萎み)」(動詞)
「しひみえふみ(廃ひ見え踏み)」。これが「しべふみ」のような音を経つつ、「しぼみ」になっている。E音とU音の連音がO音化しているということ。「みえ(見え)」は様子。「ふみ(踏み)」は実践に入ることを表現する。「しひみえふみ(廃ひ見え踏み)→しぼみ」は、無機能化していく様子が実践されている、そういう様子が現れている、ということ。生体として無機能化し、その活性は衰え、死へ(すなわち、枯れへ)向かっているような様子になっていく。
「植ゑし田も 撒きし畠も 朝ごとに しぼみ(之保美)枯れいく…」(万4122)。
◎「しほらし」(形シク)
「しほれやさし(しほれ優し)」。「さ」は脱落した。「しほれ」は「しほ(塩)」の動詞化であり、その客観的主体による自動表現。塩は潮解性が強く濡れ崩れる状態になりますが(→「しほたれ(塩垂れ)」の項・12月20日)、この「しほれ」はその性質による表現であり、存在主張せずに濡れ崩れ変容自由な状態になることを表現する。そしてそれゆえ「やさしい(優しい)」ことが「しほれやさし(しほれ優し)→しほらし」。「やさし(優し)」はその項参照(意味は、平穏で抵抗感が希薄であること)。「しほれやさし(しほれ優し)→しほらし」は、抵抗感を生じさせない感銘力、ときには愛らしさ、を感じさせることの表明です。
「座敷に燈(ともしび)かがやかせ娘を付置(つけおき)、露地の戸の鳴時(なるとき)しらせと申置(まうしおき)しに、此娘(このむすめ)しほらしくかしこまり、燈心を一筋にして物申(ものまう)の聲する時元のごとくにして勝手に入りける…」(「浮世草子」『日本永代蔵』:この「しほらしく」は、従順、素直に、といった意味ですが、なんの疑問もなく以後のことをする、という意味でもある。すなわち、燈心を一筋にして極度に倹約し、客への見栄えとして、客が来ると燈心をもとにもどし、この後、娘は台所へ行って、もてなしの御馳走をつくっているかのような音を出す)。
「莞爾(につこ)と笑らふた顔を見たれば、なうしほらしやしほらしや、天目程の靨(ゑくぼ)が七八十も入た。あまりにしほらしう思ふたに…」(「狂言」『枕物狂』:これは、愛らしい、ということ。「枕物狂(まくらものぐるひ)」は、枕に残った、人の残り香でその人を想い、恋しさのあまり思い狂うような状態になったり、寝る際に、様々な思いがめぐりおなじような状態になること)。