◎「しぶき(風雨き)」(動詞)
「スイブふき(水舞吹き)」。水が舞うように吹くこと。基本的な意味は、雨が降ることと風が吹くことが同時に起こること。そうした状態に、「しぶき」に、され、細かな水滴状に、なっている水も、その連用形名詞化により、「しぶき(飛沫)」と言い、それが、雨ではなく、通常の水であることを強調し「みづしぶき(水飛沫)」とも言う。
「霜枯れの芦(蘆)間にしぶくつり舟や心もゆかぬ我が身なるらん」(『清輔集』)。
「SHIBUKI. シブキ, 斜雨, n, A driving rain(動力が推進され、吹きまくる、雨)」(『和英語林集成』)。
◎「しぶき(渋き)」(動詞) (1)
「しぶ(渋)」の動詞化。この「しぶ(渋)」は「しぶしぶ(渋渋)」のそれであり、自動表現。ものごとが順調に、障害なく、進まず、難渋しつつ進行することを表現する。
「(蔀(しとみ)の)有りけるを取りて、脇に挟みて、前の谷に躍り落つるに、蔀のもとに風しぶかれて、谷底に鳥の居るやうに、やうやく落ち入りにければ…」(『今昔物語』:脇に挟み抱えていた(蔀(しとみ)に風が渋滞し、落下速度が遅くなり、ゆっくり落ちていった)。
「花さそふひら山(比良山)おろしあらければ桜にしぶく志賀の浦舟」(『夫木(フボク)和歌抄』)。
◎「しぶき(渋き)」(動詞) (2)
「しぶ(渋)」の動詞化。この「しぶ(渋)」は「しぶしぶ(渋渋)」のそれであり、他動表現。「しぶしぶ(渋渋)」にすること。たとえば、Aをしぶく、とは、そのAを「しぶしぶ(渋渋)」の状態に、積極的ではないが意に従う状態に、すること。これは江戸時代の俗語的表現でしょう。
「扨『さて』は班女浮舟……さいはいあたりに人もなし。ちとしぶいて見ませう」(「浄瑠璃」:多少強引にでも連れて来るということ)。
◎「しぶき(確認き)」(動詞)
「しぶ(渋)」の動詞化。この「しぶ(渋)」は、基本的には柿の渋(しぶ)なのですが、この語が、あることに関し人々が渋を喰ったような心情や表情に、快(こころよ)く受け入れず、不平や不満を抱くこと、という意味で用いられることがある。あることに「しぶが出る」(下記)が、あることに不平や不満が沸き起こる(「しぶが来る」は、苦情が出る)。動詞「しぶき(確認き)」の渋(しぶ)は自分がしたことに対し自分に出る。すなわち、そうした「しぶ(渋)」の動詞化とは、自分がしたこと(他者に命じてやらせたことも含まれるかもしれない)に不満足を覚えることであり、これを満足のいくようにすること、すなわち、自分がしたことをもう一度確認し確かなもの、満足のいくものにすることを意味する。
「明日江戸へ罷り立ち申すにつき、荷物しぶき直し…」(『森田久右衛門日記』:終わった旅の支度をもう一度たしかめ確認し、不備があれば正した)。
「八百萬石のお膝元に八萬騎ある旗本も、千石以上の高取りは、同じ格でも肩衣に拘はる筋と身を慎み、まさかに澁(しぶ)の出るやうな亂暴もして歩かぬが、小石川から牛込かけ砂利に等しき旗本の小祿取りは……町家へ出ては暴れまはり…」(「歌舞伎」『天衣紛上野初花(くもにまがふうへののはつはな)』:これは不平・不満を意味する「しぶ(渋)」の例)。