◎「しび(鴟尾)」
「シビ(翅比)」。どちらも漢字の音(オン)。「ビ(比)」は呉音。意味は「つばさ(翅)」と「(特に二つの何かが)ならぶ(比)」。「シビ(翅比)」は、翼(つばさ)が二つ揃って並んだようなもの、の意。古い時代に寺などの棟上両端に設置した装飾的なものです。「くつがた(沓形)」とも言う。形が沓(くつ)にも似ていたから。漢字表記は「鴟尾」「鵄尾」と書きますが、「鴟(シ)・鵄(シ)」はどちらも鳥の名の音(オン)を借りたもの。念のために言えば、これは城の棟上に設置される「しゃちほこ」とは全く意味が異なります。
「十三日甲寅。地震。有鷺。集豊楽殿南門鵄尾上」(『三代実録』仁和三年六月)。
◎「しび(鮪)」
「ししみゐ(獣見居)」。獣(しし)を見たような印象のもの、の意。その青黒い、尖った鉄兜のような頭部の印象。鮪(まぐろ)などの類の総称。魚の一種の総称。
「大魚(おふを)よし 鮪(しび:斯毘)突(つ)く海人(あま)よ…」(『古事記』)。
「鮪 ………一名黄頬魚 和名之比」(『和名類聚鈔』:「黄頬魚」はキハダマグロか)。
「Xibi(シビ). Peixe aium」(『日葡辞書』:「Peixe aium」は「Peixe Atum:マグロ」(ポルトガル語)か)。
◎「しひ(椎)」
「しひ(廃ひ)」。その実が皺(しわ)がよって(体力や構成が)廃(し)ひたような印象であることによる。植物(樹木やその実)の一種の名。
「木幡(こはた)の道に遇(あ)はしし嬢子(をとめ)……歯並(はな)みは椎菱(しひひし:志比比斯)なす…」(『古事記』歌謡43:これは殻のままの椎や菱の実を言っているわけではなく、それを剥いたその中身を言っている。これらはどちらも食用になる)。
「乃(すなは)ち特(こと)に名(な)を賜(たま)ひて、椎根津彥と爲(な)す。椎 此(これ)をば辭毗(シヒ)と云(い)ふ」(『日本書紀』)。
◎「しびき」(動詞)
「シみいき(指見行き)」。指先で確かめること。
「此場の時宜を夫(それ)ぞとも言はぬ色なる一包、上使(使い)の袖へ差入るれば、ちゃくと袂(たもと)でしびゐて見、俄(にはか)に作るほやほや笑顔」(『伽羅先代萩(メイボクセンダイはぎ)』)。
「そろそろとふところに手を入れてしびいてみれば。女郎はづかしさうにさしうつむき」(『好色小柴垣』)。