「ししいひ(獣言ひ)」。(人以外の)動物が言うことです。これが、機能しないこと、すなわち、機能不全や機能不能を表現する(何を言っているのかわからない、適正に機能しないということ)。この表現が肉体的機能不全、知的機能不全を意味する。さらには、社会的機能不全も意味し得る。多くは目が見えなくなったり耳が聞こえなくなったりすることを言う。活用は、形式的には四段活用でしょうけれど、「ししいはず(獣言はず)」や「ししいへど(獣言へど)」という表現は現実において不要であり、この動詞は(その名詞化も含め)連用形しか現れない。「しひられ(廃ひられ)」という表現もある。これは「しひいり(廃ひ入り)→しひり」(「廃(し)ひ」の状態になり)に尊敬の助動詞「れ」がついたもの(「機能不全におなりになり」のような意)。「しひれ(廃れ)」という動詞もある。これは「しひいれ(廃ひ入れ)→しひれ」。客観的主体の自動表現です。意味は、まったく(ひどく)機能不全になること。腹がひどく痩せ細ったことをそう表現している→「御腹たた(ただ)志ゐ連(しゐれ)にしひれ(志ゐ連)て、れい(例)の人能(の)はらよりもむけ(無下:むげ)尓(に)ならせ給ぬ」(『栄花物語』浦々のわかれ:現在国立国会図書館にある『栄花物語』全40巻(元和寛永頃)の当該部分は変体仮名をまじえつつこのように書かれている。つまり「しひれ」ではなく「しゐれ」と書かれているわけですが、H音とY音の合音がそのような変化も起こしているということでしょう。この部分、「しびれ(痺れ)」と解する人もいる。「むげ(無下・無碍)」にかんしてはその項)。

「まつがへりしひ(四臂)てあれやは三栗(みつぐり)の中(なか)上(のぼ)り来ぬ麻呂といふ奴(やつこ)」(万1783:この歌に関しては「まつがへり」の項)。

「瞎 ……シヒタリ カタメシヒタリ」「亞(亜) …シヒタリ」(『類聚名義抄』)。

「忽(たちまち)にをもき病を受けて二の耳ともにしひ…」(『三宝絵詞』)。