◎「しの」

「しにほ(為鳰)」。「にほ(鳰)」は水鳥の名であり、この鳥は潜水時間が非常に長い。「しにほ(為鳰)→しの」、為(し)ている鳰(にほ)、意思的鳰(にほ)、とは、鳰(にほ)になったように、鳰(にほ)のように、の意。これは「しのに」という言い方がなされ、語尾の「に」は、「虹ににほへる」(万1594)や「しなひにあらむ」(万2284)のような、いわゆる副詞的な(動態を形容する)、助詞の「に」。「しのに」は、息を止め長時間潜水し続けるように一心に(命懸けで)何かをしそれに打ち込んでいる状態であること、動態がただ一辺倒にそれだけになること、や、全身・全体が濡れることを表現する。「秋の穂をしの(之努)におしなべ置く露の…」(万2256)。

「…心もしの(思努)に古(いにしへ)思ほゆ」(万266)。

「あふことはかたのの里のささの庵(いほ)しのに露散る夜半の床かな」(『新古今集』:この露は涙ということ)。

また、「しののに(しのに鳰(にほ)に)」とも言う。「朝霧にしのの(之怒怒)にぬれて…」(万1831:「怒」は一般に、漢音ド、呉音ヌ、と言われる。『廣韻』には「奴古切」とあり、これはノでしょう。中華人民共和国音はヌのようなノのような音)。

◎「しののに」

上記

 

◎「しのぎ(鎬)」

「しのぎ(凌ぎ)」。つまり動詞「しのぎ(凌ぎ)」(下記)の連用形名詞化。これは刀の刃の側面部の角立った域部分を言うものですが、刀での戦いにおいて、いわゆる「鍔(つば)迫(ぜ)り合(あ)ひ」という状態になった場合、相手を自己への影響外へ措(お)こうと力を競り合い激しく削りあうような状態になる刀剣部分、ということです。

 

◎「しのぎ(凌ぎ)」(動詞)

「しひにおき(強ひに措き)」。「に」は、「虹ににほへる」(万1594)や「しなひにあらむ」(万2284)のような、いわゆる副詞的な(動態を形容する)、助詞の「に」。「おき(措き)」は存在を遊離させた(自分に影響しないように離した)状態にすること。これが「しふるにおき(強ふるに措き)」の場合、強いられた状態で措き、という順接表現や、強いられているのに措き、という逆説表現になるのですが、「しひにおき(強ひに措き)」は、「おき(措き)」自体、措(お)くこと自体、対象としては措(お)かれること、が「しひ(強ひ)」であり、主体が環境と戦い、環境に「おき(措き)」を強いようとしている(それが環境影響が自己に及ばぬようにする努力であったりもする→「寒さをしのぐ」)。

「奥山の菅の葉しのぎ降る雪の…」(万299:菅の葉が自由に雪が降ること、自由な雪の進行を妨げようとするものであるが、それが影響せぬよう措(お)き、それほどの力をもって、雪が降る)。

「…秋萩しのぎさを鹿鳴くも」(万2143)。

「(権威者を)しのぎ侮(あなど)り」。「難をしのぎ」(環境と戦い難が自分に影響しないようにし存在を示し維持した)。「ノーアウト満塁のピンチをしのぐ」。