◎「しね(稲)」

「いしいね(いし稲)」の「い」の退化。「いし」はすぐれていることを意味するシク活用形容詞→「いし」(形シク)の項。古くは、「うつくしはは(美し母)」(万4392)のように、シク活用形容詞語尾に「き」が入らずに名詞を形容する表現があった。「いしいね(いし稲)→しね」とは、すぐれた良い稲、ということであり、稲を讃えた稲の美称とでもいうものです。

「十握稲(とつかしね)を……醸(か)める酒(おほみき)」(『日本書紀』顯宗天皇即位前:歌謡とは評価されていませんが、新しい室(むろ)を建築した際の祝言にある表現)。

「秳 ……乃古利之禰 春穀不潰者也」(『和名類聚鈔』)。

伊勢神宮・内宮に「みしねのみくら(御稲の御倉)」という(神田の)稲の倉がある(象徴的なもの。その稲は神事に用いられる)。

 

◎「しの(篠)」

「しねひを(『し』音ひ緒)」。振ると『し』と音がする細い(「ひ」な)線状のもの。細く、さほど長くもない(片手で軽く振れる程度の)竹を言う。

「篠、小竹也。此云斯奴」(『日本書紀』)。

「篻 …竹也細竹也篠也 志乃又保曽竹」(『新撰字鏡』)。