「しなひ(撓ひ)」・「しなび(萎び)」の語源
◎「しなひ(撓ひ)」(動詞)
「しひいなはひ(廃ひ否這ひ)」。「いなはひ(否這ひ)」は否(いな:下記再記)の情況があらわれるということであり、拒否する情況になること。「しひいなはひ(廃ひ否這ひ)→しなひ」は、機能が不全化し力がなくなりその構成や体勢の維持力も衰えつつ(廃ひ)、そのように見えつつ、拒否・反発力・抵抗力が維持されていること(否這ひ)。「しなへ」という自動表現も現れている。「(竹が)風にしなへて…」。
「…春山の しなひ(四名比)栄えて 秋山の 色なつかしき」(万3234)。
「立ちしなふ君が姿を忘れずは…」(万4441:忘れずにいられるなら)。
「順 …シタガフ……シナフ」(『類聚名義抄』万3234:外力を受け、それに対し無力であり、その構成や体勢が受ける力のままになるとき「シタガフ(従ふ)」という印象になる。しかし「シナフ」場合、そこにはそれを拒否する反発力・抵抗力は維持されており、自己は維持されている)。
・「いな(否)」(再記)
「いねや(去ねや)」。「や」は「ね」をA音化しつつ子音は退行化した。動詞「いに(去に)」の命令表現に、呼びかけ発声の「や」がついたもの。丁寧に言えば、行きなさいな、去りなさいな、乱暴に言えば、行っちまえ、消えちまえ、の意。何かを拒否している。拒否し、客観的に、拒否すること、も意味する。
「見むと言はばいなと言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ」(万4497:(一緒に)見ようと言ったらいやだと言うのでしょうか 花が散り過ぎてしまうまであなたが来ない)。
「神さぶといなにはあらず…」(万762:年(とし)古(ふ)る神のようにあってお断りするのではなく…)。
◎「しなび(萎び)」(動詞)
「しひなえあび(廃ひ萎え浴び)」。「しひ(廃ひ)」は機能が不全化すること(→「しひ(廃ひ)」の項)。「なえ(萎え)」は自分を維持している根(ね:それを維持する力)が空虚化すること(→「なえ(萎え)」の項)。「あび(浴び)」は全身的に影響を受けること(→「あび(浴び)」の項)。すなわち、「しひなえあび(廃ひ萎え浴び)→しなび」は、その機能が不全化し、それを維持する構成が空虚化し、衰弱・無力化することが全身的に現れていること。これは、とりわけ草性の、植物に関し枯れそうな、明らかに枯れへ向かっている、状態を表現したものだろう。それは枯れてはおらず、枯れ、乾燥してはいない。しかしその活性力は衰弱しその体勢も力強く維持されてはおらず、倒れ伏し地に横たわったりしている。21世紀では一般的に野菜に関し言われることが多く、採取後、さらには購入後、使用されないまま長期間保存され、水分も抜け、活性力も弱まり、体構成の維持も弱まっているそれを「しなびた大根」その他の言い方をする。
この語は上二段活用。