◎「しな(階)」

「階段」を意味する「しな」。「しな(品)」。この「しな(階)」は階段の踏み段全体や個別的踏み段を意味するのですが、「しな(品)」は(ここでは社会的な)「値(ね)」、さらにはその違い、を表し、中国語の「階(カイ)」や「陛(ヘイ)」は階段(きざはし)を意味し、この「階(カイ)」は、「官階」(上下・優劣のある官の位)「身進之階」(出世の階段、のような意)といった表現があるように、社会的な値の違いを表す語となっており、そうした中国語における「階」の影響により、つまり中国語の「階(カイ)」は「しな(品)」でありそれは階段でもあることから、階段が「しな」とも呼ばれたのでしょう。

「階陛 倭云支邦(しな)」(『新訳華厳経音義私記』)。

「堦 ………俗爲階字 波之 一訓之奈 登堂級也 ……一名階…訓美岐利」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「しなえ(萎え)」(動詞)

「しひなえ(廃ひ萎え)」。機能不全化し生命力が衰退すること。

「君に恋ひしなえうらぶれ吾が居れば秋風吹きて…」(万2298)。

 

◎「しながどり(枕詞)」

「すゐなぎはどり(巣居和ぎ羽鳥)」。巣に居る和(な)いだ(穏やかで平穏な)状態になる羽の鳥、の意。どういうことかと言うと、これは枕詞であるとともに水鳥の一種たる「かいつぶり(鷉鸊)」(※下記)の別名と思われ、この鳥は孵化した幼鳥が親鳥の背に乗り羽根の下にこもるような状態になりつつ親鳥が水上を移動したりする。雛が、周囲全体を羽で覆われた空間にいるような状態になる。そういう状態になる鳥、という意味で、巣に居る和(な)いだ(穏やかで平穏な)状態になる羽の鳥→「すゐなぎはどり(巣居和ぎ羽鳥)→しながどり」ということ。この枕詞は「ゐ」にかかりますが、それは上のような意味の和(な)いだ平穏で幸福な「居(ゐ)」ということであり、「あは(安房)」にもかかっていますが、これは「ああは(ああ羽)」ということでしょう。「ああ」は感嘆発声。上のような意味での平穏で幸福な羽、ということ。「ゐ」は「猪(ゐ)」にもなり、「しながどり」は猪(ゐのしし)の異称にもなる(これはある程度のちのことでしょう)。

この語の語源説としては、「し」はその音(オン)から息を意味し、息が長い鳥、という意味であり、これは非常に長く潜水することで知られ水上に出て長く息をつくカイツブリ(古名にほ(鳰)」)だ、という説が相当に有力になっています。

「しながどり(志長鳥)猪名野を来れば…」(万1140:「ゐな(猪名)」は地名)。

「しなが鳥(水長鳥) 安房(あは)に継ぎたる 梓弓 周淮(すゑ)の珠名は…」(万1738:「周淮(すゑ)」は地名。「末(すゑ)」は弓の部分名であり、「梓弓(あづさゆみ)」という枕詞がこれにかかる。「珠名(たまな)」は人名(女性))。

※ 鳥名「かいつぶり(鷉鸊)」(古名「にほ(鳰)」)は「こアイつみもり(子愛積み守り)」でしょうう。前記のような習性から、子への愛を背に積み守(も)りをするもの、の意。