◎「しと」

「しひとよ(廃ひ響)」。「とよ(響)」は、単なる音(おと)ではなく、その音が響きあう状態であること。「しひとよ(廃ひ響)→しと」は、衰力化している響き、響かない響き、鈍(にぶ)い響き、というような表現。水を含んだり、乾燥したりするもの(木や皮がそうであり、世界自体がそう)が、乾燥して軽やかに良く響く状態から、あまり響かない状態になっている―そんな印象を表現したもの。つまり、乾いた、よく響く軽やかな乾燥音が無機能化や弱機能化しているもの、ということであり、経験上、それは、それが水分を含むことによる、ということ。この表現が、水分を含んでいること→「しとり。しっとり」、静かで穏(おだ)やかなこと(同時に水分も感じる)→「しとやか」、静かに、またゆっくりと、ものごとをおこなうこと(「しとしとと」が「しとやかに」と同じような意味になる)、や、静かに、大地に水分が滲(し)み入るように雨が降ること→「しとしと(と雨が降る)」、また、非常に多く水分を含んでいる((雨や汗や涙などに)濡れている)こと→「しとど(しとしと)」、を表現する。

「凡(およそ)大人ト云者ハ歩ミ様モシトシトトアルヘシ」 (『春秋抄』)。

 

◎「しとり(湿り)」(動詞)

「しと」の動詞化。「しと」はその項(上記)。「しと」の状態・動態になること。

「おもしろう汗のしとるや旅浴衣」(『文政句帖』(小林一茶))。

「煎餅(せんべい)がしとる」(これは、湿気(しけ)る、とほとんど同意)。

 

◎「しとやか」

「しと」は落ち着いた状態を表現する擬態→「しと」の項。「やか」は「さはやか(爽やか)」「おだやか(穏やか)」その他に同じ(→「はるか(遥か)」の項)。

「(老人を演じるには)ただ、大方、いかにもいかにも、そぞろかで(動態に確定性なく)、しとやかに立ち振舞(ふるま)べし」(『風姿花伝』(能に関する書))。