◎「しで(垂)」
「しづつて(沈静伝て)」。「つて(伝て)」は動詞「つて(伝て)」の連用形名詞化。「しづつて(沈静伝て)→しで」は、沈静を伝える・感応させる、もの。物的には、紐状のものを垂らすことをする。それによりその域が理性の及ばぬ神域に感応する。様々な施設や物(たとえば注連縄(しめなは))に木綿(ゆふ)や紙を垂らし「しで(垂)」とする。藁を用いる場合もある。たとえば木綿(ゆふ)を「しで(垂)」として設置することを「木綿(ゆふ)しで」と表現し、この語は動詞化もする。その場合も、ただ紐や縄のようなものを垂らすことを表現するのではなく、それによりその域が神域に感応する域となることを表現する。用いられるものは、古くは木綿(ゆふ:楮(かうぞ)を原材料とした糸状のもの)が最も一般的でしたが、のちには、ある型に切り、折り、成型した白い和紙が一般的になっていく(※下記)。
「下枝(しづえ)に白丹寸手(しろにきて)・青丹寸手而(あをにきて)を取(と)り垂(し)でて 訓垂云志殿」(『古事記』:「にきて(丹寸手)」は「にきたへ(和栲)」でしょう)。
「後(おく)れにし人(旅に出て残してきた人)を思はく四泥(しで)の埼 木綿(ゆふ)取り垂(し)でて幸(さき)くとぞ思ふ」(万1031:「四泥能埼(しでのさき)」は現・三重県四日市)。
※ 紙垂(しで)の切り方・折り方には流派が言われたりもしますが、正方形の白い紙を正方形に九つに分け、二か所切り、折ったものでもなんの問題もない(九つにわけた線を、一本は上から、他方は下から、二桝(ふたます)ぶん切り、切れ目の絶えたところで、二か処、手前に折る。上部にあたる桝(ます)は)向こうへ折る(紙は二枚重ねると充実感が生じる))。
◎「しだり(垂り)」(動詞)
動詞「しで(垂で)」(上記)の自動表現。「しで(垂で)」られた状態になること。下方へ伝動すること。これは語尾E音化による動態表現が起こり「しだれ(垂れ)」になる。「垂(しだ)れ柳」。
「吉備笠臣垂(きびのかさのおみ…)……………… 垂、此云、之娜屢(シダル)」(『日本書紀』)。
「柳 ………小楊…和名之太里夜奈木」(『和名類聚鈔』)。
「柳もいたうしだりて、築地にもさはらねば、乱れふしたり」(『源氏物語』。