「しづ」は「しづ(沈静)」の項(10月30日)。「けし」は「けし」の項(下記に再記)。「しづ(沈静)」であることに心惹かれている(感服する、というような意味で心惹かれている)ことを表現する。
「…いざ兒(こ)ども あへて漕ぎ出む にはもしづけし(之頭氣師)」(万388:「兒(こ)ども」は船を操作する一同。「には」は利用される海域)。
「けし」(再記)
たとえば「はるけし(遥けし)」(形ク)の場合、「はるこえし(遥此歓し)」。「はる(遙)」は「はるばる(遥遥)」などのそれ→「はるか(遙か)」の項。その「はる(遙)」を「こ(此)」(これ)と特定強調的に(つまり、一般的に、ではなく、個別具体的に)気づき確認し、「えし(歓し)」(形ク)は満足(感服する、というような意味で心惹かれること)を感じるもの・ことであることを表現する(その項)。すなわち、「はるこえし(遥此歓し)→はるけし」は、遥々(はるばる)としていることを強調提示しそれに満ち足りたような・感服したような、思いにあることを表現する。まったく「はる(遥)」だ、それに疑問を感じない、ということ。
この「~けし」がさまざまな語により表現される。同じ「けし」による語として「のどけし(長閑けし)」、「さやけし(清けし)」、「しづけし(静けし)」、「あきらけし(明らけし)」、「つゆけし(露けし)」などがある。
「…月に向ひて霍公鳥(ほととぎす)鳴く音(おと)遥けし(はるけし:波流氣之)里遠みかも」(万3988)。
「久(ひさ)かたの光(ひかり)のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ」(『古今集』)。