「ひイチリン(火一輪)」。これが「ひちりん」となり、江戸の下町なまりで「しちりん」になった(「ひちりん」とも言う(下記※))。火を一輪の花にたとえたわけです。風流人の命名でしょう。持ち運び可能な土製の小さな焜炉(コンロ)の名。これで煮炊きをする。これは江戸風の名であり、京阪では「かんてき」と言う。「かんてき」は「カンテキ(寛敵)」でしょう。「寛(カン)」な「敵(テキ)」、ではなく、寛(カン:(くつろ)いだ緊張のない状態)」は敵→油断するな、ということであり、防火の心掛けが表現された命名。表記は仮名書きが多いですが、「七厘」とも書く。「厘」は「釐」の略字であり、「釐」は『説文』に「家福也」とある字。この表記は小さな家の幸福ということか。
「蜩(ひぐらし)や七輪赤く厨(くりや)には」(「俳句(尾崎迷堂)」)。
「瓦器売 京阪かんてきと 火炉かんてきはかんへきの訛か。此炉忽に炭を火とす故に癇癖と云也。江戸にては七厘と云」(『守貞漫稿』)。
「七釐爐中有鐡(鉄)簀盛炭 簀下横有風口 火自熾以煎薬煖酒 炭價(価)纔(わづか) 不至一分 因稱(称)七厘」(『和漢三才図会(「火爐(ひばち)」の項)』(1712年):「厘」を量や価を表現するものと考え、用いる炭の量が一分にも満たない少量で済むので「七厘」という、という語源説は江戸時代からあるということ。量単位としては十厘で一分)。
※ 江戸の下町(江戸城の東側)では「ひ」と「し」が入れかわった。たとえば「ひがし(東)」と「しがし」、「しちや(質屋)」と「ひちや」。