◎「したみ(籮)」
「したらみ(為たら見)」。「ら」の退行化。「たら」は液状のものが垂れる擬態→「たら」の項。意図的な(とくに水の)垂れを見るもの・こと、ということですが、これは底が四角く平で容器状になった笊(ざる)のような容器であり、中に何か(たとえば米や豆)を入れ(洗いなどし)そのものの水をきる。
「籮 ……底方上圓(円)者爲籮 …和名之太美」(『和名類聚鈔』)。
「藪䈹 …漉米器 志太弥」(『新撰字鏡』)。
◎「したみ(湑み)」(動詞)
(笊(ざる)の)「したみ(籮)」の動詞化。「したみ(籮)」が何かを水をきるために用いられ、水が滴(したた)り、動詞「したみ」はそうした作業をすること、すなわち、基本的な意味は何かを水(あるいは液体状のなにか)が滴(したた)る状態にすることですが、「Aをしたみ」と言った場合、Aに水などをそそぎ(あるいは、Aに水などを含ませ)、それを水などが滴る状態にすることも言い、Aに圧力を加えそれから水などが浸みだし滴る状態にすることも言う。
「淋(下記※) ……以水液己……シタタル モル ヒタス … シタム」(『類聚名義抄』)。
「漉酒 佐介志太牟」(『新撰字鏡』)。
「見るもうきは鵜縄ににぐる(逃ぐる)いろくづをのがらかさでもしたむもち網」(『山家集』:「いろくづ(色屑)」は鱗(うろこ)を言いますが、ここでは魚一般。「もちあみ(持ち網)」は漁具たる四つ手網の一種。「逃(のが)らかさでも…」は、逃(のが)れることはさせなくても、ということですが、それに「湑(した)む」もち網に醜悪な貪欲さを感じるということか)。
「『モウ是で御免なはいまし』ト顔をしかめて盃をしたみ元のところへ直す」(「洒落本」:盃の酒をこぼし捨てるようにすべて飲んだか、何らかの容器に捨てるようにこぼし入れた)。
※ 「したで(滴で)」でもふれましたが、「淋(リン)」は、21世紀では一般に「さびしい」と読まれますが、中国語の意味は水を注(そそ)ぐことや水が滴(したた)ること。この字が「さびし」と読まれる理由は明確ではありませんが、水分(涙)が滲(にじ)みで、滴(したた)る思いになるということか。遅くとも江戸時代にはそう読まれている。「𨶑 サビシ…………同 淋」(『和漢音釈書言字考節用集』(1717年))。