「しひゐとはひ(強ひ居と這ひ)」。「しひ(強ひ)」の意味に関しては「し(助)」の項(8月27日)参照。それ(自己の情況や動態)が宇宙や自然のおおいなる意思であるような情況でその自己の情況や動態があることを表現する。「しひゐとはひ(強ひ居と這ひ)→したひ(慕ひ)」は、そのようにして(それが宇宙や自然のおおいなる意思であるような情況で、それが居(ゐ)る(有る)ことが宇宙や自然のおおいなる意思として必然であるような状況で)、何かが居(ゐ)る(有る)という情況になること。そういう思い・心情になりもし、現実に、物的に、それが居(ゐ)る(有る)という状態になろうともし(そのもとへ行ったり、それを追ったりし)、それがものごとであればそれに倣(なら)おうともする。

「しらぬひ筑紫の国に泣く子なす慕(した)ひ来まして…」(万794)。

「…(妻も子供も)聲(こゑ)の吟(さまよ)ひ しろたへの袖泣き濡らし たづさはり 別れかてにと 引きとどめ 慕(した)ひしものを 大君(おほきみ)の 命(みこと)かしこみ…」(万4408:東国の防人の歌)。

「我が城へ敵取り懸けば日を暮らせ退かん所をしたはんがため」(『義経百首』:追撃する)。

「弟子、法師の徳を慕(した)ひ重むす」(『三蔵法師伝』:「重(おも)むす」は、おもみす・おもん(む)す。重(おも)んじるということ)。

「去廿七……殊に敵慕候処 押返数十人討捕之由…」(「上杉景勝書状写」:敵を追跡・追撃している)。