◎「したで(滴で)」(動詞)

「しとやつて(湿や伝て)」。「しと(湿)」は濡れ、しめっていること(「しと」の項)。「や」は詠嘆。「つて(伝て)」は伝えることであり、他動表現ですが、たとえば「血をつて」は血を垂らすことを意味する。とりわけ、液体(血や水や汗)が、垂れ落ちる、のではなく、何かに付きつつ自由落下していく。「しとやつて(湿や伝て)→したで」は、ぐっしょりと濡れた状態で垂らすこと。

「淋(下記※) ………シタタル モル……シタム シタテ…」(『類聚名義抄』)。

「鎧の水したでてぞ立ったりける」(『太平記』)。

「血をしたで」。「涙をしたで」。

※ 「淋(リン)」は、21世紀では一般に「さびしい」と読まれますが、中国語の意味は水を注(そそ)ぐことや水が滴(したた)ること。この字が「さびし」と読まれる理由は明確ではありませんが、水分(涙)が滲(にじ)みで、滴(したた)る思いになるということか。遅くとも江戸時代にはそう読まれている。「𨶑 サビシ…………同 淋」(『和漢音釈書言字考節用集』(1717年))。

 

◎「したでる」(動詞)

「しとやにてる(しとやに照る)」。「しと」は水分を含んだ状態であることを表現する→「しと」の項。その状態かに照る、とは濡れ輝くように照る、ということ。

「この大国主命……多紀理毘賣命(たきりびめのみこと)を娶(めと)して生める子は…次に妹高比賣命(いもたかひめのみこと)。又の名は下光比賣命(したてるひめのみこと)」(『古事記』)。

「春の苑(その)紅(くれなゐ)にほふ桃の花したでる道に出で立つをとめ」(万4139)。

「橘の下照る(したでる:之多泥流)庭に殿(との)建てて さかみづき(佐可彌豆伎)います我が大君かも」(万4059:「さかみづき」はその項)。

この語は一般に、下に照る、下のあたりが美しく照り映える、と解されている。