◎「したため」(動詞)
「しとはてはめ(為と果て嵌め)」。「しとはて(為と果て)」は「思念としてそのことの「し(為)」に終局的にいたっていること」(→「したたか(強か)」の項・10月19日参照)。「はめ(嵌め)」は既存の型におさめることですが、ここでは、何か(たとえば事態の成行き、自分や社会の現状)を、こうありたい、こうあるべきだ、と思う状態にすること。この場合の「はめ」はそうした「はめ(嵌め)」を意思性をもって発生させること。すなわち、「しとはてはめ(為と果て嵌め)→したため」は、ある動態やものごとの「し(為)」に終局的にいたっていることを意思性をもって発生させること。現実を「しとはて(為と果て)」へ嵌(は)めていく。現実を「しとはて(為と果て)」に嵌(はま)る状態にしていく。ものやことに関わり、その関わりを、その関わりが終局している、果てている、ことを意思性をもって発生させた場合、現実を「しとはて(為と果て)」に嵌(はま)る状態にしていった場合、そのものやことをもうこれ以上何もすることがないという状態に、あるべき状態に、する。これはそのものやことをなにも問題が起こらないよう整理し整えたり、なにごとかのために何も問題がないように準備された状態にしたりする。
「よろづのことどもしたためさせたまふ」(『源氏物語』:旅に出るにあたって、留守宅の管理、随行する者の手配、その他、あらゆることの準備・支度や整えをおこなった)。
「『日暮れぬ』と、さわぎたちて、御あかし(燈明)のことどもしたためはてて、急がせば(急がせるので)…」(『源氏物語』:御燈(みあかし)のことを、すべて完全にし終えたと言える状態で処理し整えた)。
「後のしたためなども、いとはかなくしてけるを…」(『源氏物語』:「のちのしたため」は、「のちのこと」とも言いますが、人の死後おこなわれる弔いの作法全般。これは「のちのこと」を、深く配慮を込めておこなったこととして表現するような、そんな表現になっている)。
「武具をしたため」(『三体詩抄』:なんの問題も無い状態に整え準備し装備した)。
「世間の作法(を)したためさせ給ひしかど」(『大鏡』:社会秩序を整備し整えた)。
「今は昔、大隅守(おほすみのかみ)なる人、国の政をしたためおこなひ給ふあひだ」(『宇治拾遺物語』:なんの問題も起こらぬよう周到に統治をおこなった)。
「河なかの橋をふまばおつる様(やう)にしたためて、燕丹(ゑんたん)をわたらせけるに…」(『平家物語』:周到にそのように準備した)。
文(ふみ)・手紙を書くことを「したため」と表現するのはそれを様々な事柄をそうあるべきとおさめるために様々な思いや情報を届ける努力として表現しているものであり、これは、「(手紙を)かき(書き)」を、なしうる努力を尽くしてそれをなした、と表現した表現になる。「伊勢参宮するとて、この関まで男の送りて、明日は故郷に返す文(ふみ)したためて、はかなき言伝などしやるなり」(『奥の細道』:これは、宿で、他の間から聞こえて来た女の言っていることを書いたもの。この女は二人連れで、越後の遊女だそうです)。
何かを食べること・飲むことを「したため」と言うこともある。これは食べることの終局が尽くされたように食べる。すなわち、ただ食べたのではなく、充足した状態で食べた。ただし、これは、「くひ(食ひ)」や「たべ(食べ)」や「のみ(飲み)」を直接に言わず、粗野な表現になることを避けたような、そんな表現になっている。「菓子共引き寄せて、思ふ様にしたためて居たる所に、敵の声こそ喚きけれ」(『義経記』)。「福井は三里ばかりなれば、夕飯(ゆふげ)したためて出づるに、黄昏の道たどたどし」(『奥の細道』)。
◎「したたまり」(動詞)
「したため」(上記)の自動表現。「したため」られた状態になること。「『…この殿、御後見もし給はば、天下の政はしたたまりなん』」(『大鏡』)。
◎「したたにも」
「したた」は「したつや(下つ屋)」。「したたにも(志多多爾母)よりねてとほれ→したつやにも(下つ家にも)寄り寝てとほれ」。「つ」は所属を表現する助詞。下(した)の家(や)は、空から見て下、すなわち地上の家(すなわち自分のところ)でもあるでしょうけれど、地下の家、黄泉の国の家、死後の自分、でもあるでしょう。『古事記』の軽太子の歌(歌謡84)にある表現です。一般的ではありません。この語は一般に「したたかにも」や「下(した)下(した)にも」(ひそかに)と解されている。
◎「しただみ」(動詞)
「したでたみ(舌出廻み)」。「たみ(廻み・訛み)」(圧力を受け変形し歪んだな状態であること)はその項参照。「したでたみ(舌出廻み)→しただみ」は、舌の動きが通常にない変動したものであること。言葉が訛(なま)ること。「あつま(東)にてやしなはれたる人のこ(子)はしたたみてこそ物はいひけれ」(『拾遺和歌集』)。