◎「したがひ(従ひ)」(動詞)

「したとかひ(下と交ひ)」。「した(下)」に関してはその項(情況的に自縮動態進行していると認められるもの・ことを意味する・10月13日)。「と」は思念的になにかを確認する(「と(助)」の項)。「かひ(交ひ)」は、相互的進行動態交流が表現されること(→「かひ(交ひ・換ひ・買ひ)」の項)。すなわち、「したとかひ(下と交ひ)→したがひ」は、下(した)の状態で交感が生じる情況になること。なにに関して「した(下)」なのかに関しては、意味や価値に関することが多いですが、空間情況や時間情況である場合もある。空間情況や時間情況に関する場合、とは、たとえば、「道を行くにしたがひ周囲に人家が増えた」(道を行く、という動態に従属し、のような意味になる)や「日がたつにしたがひ暖かくなってきた」といったようなもの。他動表現は「したがへ(従へ)」。

「『…(私も)年ごろ従ひ来つる人(夫)の心にも、にはかに違ひて逃げ出でにしを、(夫は)いかに思ふらむ』」「(豊後の介に)したがひ来たりし者どもも、類に触れて逃げ去り、本の国に帰り散りぬ」(『源氏物語』)。

「(楫取が)『幣(ぬさ)を奉りたまへ』といふ。言ふにしたがひて、幣たいまつる」(『土佐日記』:「たいまつり」は事実上、まつり、と意味はほとんど変わらない)。

「まし満(ま)えの風に志(し)たかふ浪なれやよするかたこそ堂(た)ち満(ま)さりけれ」(『蜻蛉日記』:これは、一頁めに「〓原家蔵」(「〓」は木偏に「祀(の略体。読みは、さかき、でしょう。「榊」は日本で作られた字)」)という朱色の蔵書印のある、現在、国立国会図書館所蔵の上・中・下三巻のものから写したもの。そこには、ましま、ではなく、まつしま、だといった添削も書かれているが、それは省いた。「ましまえ」は、増(ま)し間(ま)江(え)、でしょう。増(ま)している間(ま)の、より広い、入り江(え))。

◎「したがへ(従へ)」(動詞)

「したがひ(従ひ)」の他動表現。「したがひ(従ひ)」の動態にすること。

「…大殿のうちを朝夕に出で入りならし、人を従へ事行なふ身となれば、いみじき面目と思ひけり」(『源氏物語』)。

「吾こそ人をしたがへしか、人にしたがふ身となりにたるが悲しき事」(『落窪物語』)。

 

◎「したき」(動詞)

「した(下)」の動詞化。「した(下)」はその項(10月13日)。何かを自分の下(した)の動態にする(無機能化・無効化する)こと。「した(下)」は空間的意味とは限らない。意味や価値、権威や力の関係であることもある。この言葉は「しだき」と濁音化する。足の下の状態にすることも多い。すなわち、踏みつける→「踏みしだく」。「噛みしだく」という表現もある。

「その原や 野風(のかぜ)にしたく刈萱(かるかや)の しどろにのみも 乱れけるかな」(『堀河百首』)。

「柴(しば)の籬(まがき)をわけつヽそこはかとなき水の流れどもを踏みしたく駒(こま)の足音も、なほ、『忍びて』と用意したまへるに…」(『源氏物語』)。