「ししくふしろ(獣食ふ代)」。「しろ(代)」は「しろ(代・城)」の項。ここでは、身代(みのしろ)金、身の代(か)わりとなる金、のような意のそれ。「ししくふしろ(獣食ふ代)→ししくしろ」は、獣・宍(獣肉)を食う代償、その対価として得ること、払うこと、の意。それは「うま:旨(うま)い」と「よみ(黄泉:死の世界):獣は死ぬ」ということ。この枕詞は「うまい(熟睡)」や「よみ(黄泉)」にかかる。
「… 妹(いも)が手を我にまかしめ 我が手をば妹(いも)にまかしめ ……ししくしろ熟睡(うまい)寝(ね)し間(と)に 庭つ鳥鶏(かけ)は鳴くなり …」(『日本書紀』歌謡96)。
「…吾妹子(葦屋(あしのや)の菟名負處女(うなひをとめ))が母に語らく……………の 争ふ見れば 生けりとも あふべくあれや ししくしろ 黄泉(よみ)に待たむと 隠沼(こもりぬ)の 下延(したはへ)置きて うち嘆き 妹が去ぬれば…」(万1809:「生けりとも あふべくあれや」は、生きていても、生きている、という状態を完全に維持できるだろうか(生きている、という状態にならない)。「下延(したはへ)置きて」は、人には知られていなかったが、そんな思いになっていたその思いを現して。「妹が去ぬれば」は身を投げ自ら命を絶ったということ)。