◎「しげない」(形)

「しげない(茂無い)」。「しげ(茂)」はその項(9月25日)。「しげない(茂無い)」は繁茂・繁栄する状態が無いことの表明。これに酷似した表現で「しがない」がある(9月11日)。

「細い腰に細い帯したもの、のかい(退かい)、はなさい(離さい)、切らさしますな。しげない戯(たはむれ)はせぬものぢや」(「狂言」『若菜』(『狂言五十番』(富山房)):原文は「細い腰に細い帯したものゝかいはなさいきらさしますな」)。

 

◎「しげみ(茂み)」

「しげみ(茂見)」。茂(しげ)を見ること・もの、の意。「しげ(茂)」はその項(9月25日)。樹木、その枝、に関し言うことが原意でしょう。

「山吹の茂(しげ)み(之気美)飛び潜(く)く鴬(うぐひす)の聲(こゑ)を聞くらむ君は羨(とも)しも」(万3971:「ともし(羨し)」は、私もそうありたい、のような意)。

「夏の野の茂(しげ)み(繁見)に咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものぞ」(万1500)。

・「瀬を早み」の「早み」のように、形容詞の語幹に「み」がついて動詞化する表現たる「しげみ(茂み)」もある。その場合、「しげ(茂)」になるのは人言(ひとごと:人の言葉:噂)、人目(ひとめ)、事(こと)、恋(こひ)、樹立(こだち)、山、黄葉(もみぢ)、桜花、山霧、露、など、さまざまです。

「人言を繁み言痛(こちた)みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る」(万116:噂が激しい)。

「恋繁み(しげみ:思気美)慰めかねてひぐらしの鳴く島蔭に廬(いほ)りするかも」(万3620)。

「秋風の日に異(け)に吹けば露をしげみ(重)萩の下葉は色づきにけり」(万2204:この「重」は「おもみ」とも読まれている)。

 

◎「しげり(茂り)」(動詞)

「しげ(茂)」の動詞化。「しげ(茂)」はその項。何かが次々と起こり、発生し、没頭したように、その次々と発生する状態になりきってしまうこと。ほとんどの場合植物に関して言う。

「…真間(まま)の手児名(てこな)が 奥つ城(き)を こことは聞けど 真木の葉や 茂(しげ)りたるらむ…」(万431:最後の部分「茂有良武」は、しげくあるらむ、とも読まれている)。

「藤波の茂り(しげり:志氣里)は過ぎぬあしひきの山霍公鳥(やまほととぎす)などか来鳴かぬ」(万4210)。

「御髭などもとりつくろひたまはねば、しげりて…」(『源氏物語』:これは髭(ひげ)が茂っている)。

「君がすむ山路に露やしげるらむ…」(『多武峰少将物語』)。