◎「しきゐ(敷居)」
「しきゐ(及き居)」。「しき(及き)」はその項。接着・到着した状態になっているところ、の意。接近した人がそこにいなければならないところ。限界的居場所。無断でそれを越え内部に入ってはならないところ。門や家や部屋の出入り口の下の横木を言う。「しきみ(閾)」(9月20日)に意味は似ている。
敷(し)いて居(ゐ)るもの、という意味で、そこに坐すために敷く敷物を意味する「しきゐ(敷き居)」という語もある。「小楯大きに驚きて、席(しきゐ)を離れて悵然(いた)みて再拜(をが)みまつる」(『日本書紀』)。
◎「しくしく」(1)」
「しきゆゆしく(頻き由由しく)」。動詞「しき(頻き)」(9月17日)・形容詞「ゆゆし(由由し)」はその項。「しきゆゆしく(頻き由由しく)→しくしく」は、動態が頻(しき)りであることがゆゆしい、ということであり、何ごとかが極度に頻繁であること。
「春雨(はるさめ)のしくしく(敷布)降るに高円(たかまと)の山の桜はいかにかあるらむ」(万1440)。
「あつまやのこやのかりねのかやむしろしくしくほさぬはるさめそふる(東屋の小屋の仮寝の茅筵しくしく干さぬ春雨そ降る)」(『拾遺愚草』:しくしく干す、のではなく、しくしく干さぬ(干そうと思いつつ干すことがない)と言っている)。
この「ししくしく」は「さめざめ」や「おろおろ」などと同じ動態持続や擬態と扱われ「しくしくと」という表現も現れる。「たえがたくかなしくて、しくしくとなくよりほかの事ぞなき」(『右京大夫集』:絶え間なく涙が流れるような状態になる。これは後の「少女が悲しそうにしくしく泣いている」や「腹がしくしく痛む」などの「しくしく」とは別の表現)。
◎「しくしく」(2)
「シックシック(失句失句)」。「句(ク)」は一区切りの言語表現。「シックシック(失句失句)」は、言語表現を失い、また言語表現を失い、という表現。それが連続していくことが表現され、心情が窮していく状態になっていることが表現される。「しくしく泣く」「腹がしくしくと痛む」。
「扨扨(さてさて)、きやつが相撲はふしぎなすまふじや。やつ(ヤッ)といふ、おつぴらくと、何(なに)とやら身うちがしくしくすると思ふたれば、目がくるくるとまふた」(「狂言」『蚊相撲』:この相撲の相手は蚊の精だそうである)。