「ひし」の動詞化。「ひ」の脱落。「ひし」はH音とI音、そしてS音の動感、による感覚進行と動感進行により凝集し密着していく動態を表現する擬態。「ひしき」はその動詞化であり、動態が「ひし」の動態になること。動態の密度がます、というような動態を表現する。ある動態の客観的対象との密度がませば、それに及び、追いつき、といった意味になり(→「しき(及き)」・9月16日)、動態の密度がますことは、それは充実し、時間的に密度がますことは、その動態はその出現と出現の間を短縮しつつ何度も現れるような状態になり、時間的・空間的に密度がますことは、その動態が、そしてその主体が、茂りを増し、榮えていく、盛りとなっていくことを表現する。「小鳥がしきりに鳴く」の「しきり」は「しきいり(頻き入り)」(「いり(入り)」は、驚き入り、などのそれであり、まったくその動態になること)であり、それは小鳥がまったく「しき(頻き)」の動態で鳴く。「しき波(なみ)」は頻度を増すように次々と寄せてくる印象の波。

「住吉(すみのえ)の岸の浦廻(うらみ)にしく波のしくしく妹を見むよしもがも」(万2735:「~もがも」は希求を表現する→「もが」の項)。                                                                                                             

「新(あらた)しき年の初めの初春(はつはる)の今日(けふ)降る雪のいやしけ吉事(よごと)」(万4516:これは『万葉集』最末尾の歌)。

「やすみしし 我が大君(おほきみ) 高照らす 日の御子 しきいます(茂座) 大殿の上に…」(万261:「います(座す)」という存在動態自体が「しき」だということ)。

「井の上(ほとり)に一つの湯津杜樹(ゆつかつらのき)有り、枝葉(えだは)扶疏(しきも)し」(『日本書紀』:「もし」は膨張的・膨満的であることを表現するク活用形容詞。通常の漢字表記は「茂し」)。