◎「しがらみ(柵み)」(動詞)
名詞「しがらみ(柵)」の動詞化。名詞「しがらみ」は「しからみ(為絡み)」であり、語頭の「し」は意思的・故意的であることを表現する。つまり、意図的にからませるもの、の意(「からみ(絡み)」は「から(駆)」の項)。何を何にからませるのかというと、木の枝葉であれ枯れ草であれ何であれ、それを水流域へ打ち立てた杭や竹などに絡ませ水流を阻止したり変更したりする(念のために言っておけば、古代においてはプラスチックゴミやビニールゴミといったものはない)。そのための施設が「しがらみ(柵)」。その絡みつく何かの杭に対する状態になることが動詞たる「しがらみ(柵み)」。「からみつく」に意味は似ているわけですが、しがらみた場合、からんで、全体が固定化したようになる。動詞「しがらみ」は「着物の裾が簀子(すのこ)にしがらみ(裾が簀子(すのこ)にからみつき」といった表現もあり、「胸は思いのしがらみて」(思いがからみついたような状態になっている)といった表現もある。後者は身動きがとれないほど思いにとらわれるわけです。人目がしがらめば、人目が気になって思うように動けない。
「明日香川(あすかがは)しがらみ(四我良美)渡し塞(せ)かませば流るる水ものどにかあらまし」(万197)。
「…萩の枝を しがらみ(石辛見)散らし さを鹿は 妻呼び響(とよ)む…」(万1047:鹿の鳴き声が萩にしがらみ流れるような表現になっている)。
◎「しがみつき」(動詞)
「しがらみつき(柵み付き)」。「ら」の脱落。柵(しがら)むように絡(から)みつく。
「小冠(こくゎん)、少しも驚きたる気色もなく、やがて(そのまま)相手(かたき)にしがみつきて、刀を奪ひ取りて…」(『古今著聞集』)。
◎「しかり(叱り)」(動詞)
「ししけはやり(獣気逸り)」。獣が、獣のように人が、興奮・激昂すること。さらには、他動化し、主に人に対し、そうした動態の影響を及ぼそうとすること。江戸時代には最も軽い刑罰を「しかり」といった。この刑罰としてのそれは呼び出しての厳しい口調の口頭による訓戒。
「まさひろ(方弘)はきかずとて君達のをしへければいみしうはらたちしかりて、かんかへて(処罰を調べ糺(ただ)し)、たきくち(滝口:警護武士)にさへわらはる」(『枕草子』(一巻の表紙に「清少納言記」とある現在国立国会図書館にある全五巻のもの。その一巻))。
「猪(ゐ)のししといふものの腹立ちしかりたるはいとおそろしき物なり」(『宇治拾遺物語』)。
「ゆるしてはいけないことをした子をしかる」。