◎「しかぶき(咳き)」(動詞)

「しこはぶき(為凝省き)」。「しこ(為凝)」は、動態感・生態感のある凝(こ:凝結・凝固)。これが喉(のど)のあたりに感じられる。「しこはぶき(為凝省き)→しかぶき」は、この凝結・凝固を離脱・除外する努力であり、呼気を破裂的に作用させることによりそうしようとする。強く咳(せ)き込む、咳(せき)払いをする、といった意味。これは『万葉集』892の歌11句にある「之可夫可比(しかぶかひ:しかぶきはひ(咳き這ひ・しかぶく状態になり))」という表現によりあることが認められる動詞。この歌の原文(西本願寺本)「之可夫可比」は、一般に、「可」は「波」の誤字として「しはぶかひ」と読まれ「しはぶく(咳く)」(「しはぶき(咳き)」の項)の変化とされている。

「…糟湯酒(かすゆざけ) うちすすろひて しかぶかひ…」(万892)。

 

◎「しかみ(顰み)」(動詞)

「しきあやみ(敷文み)」。「しき(敷)」は敷物(しきもの)のこと。「あやみ(文み)」は「あや(文)」の動詞化であり、幾重もの筋になること。「しきあやみ(敷文み)→しかみ」は、敷物が皺(しわ)がより幾重もの筋になるような状態になること。顔が顰(しか)んだ状態になれば渋面になる。そうなることを表現する「しかめ(顰め)」という他動表現も現れる。

「蹙齃(シュクアツ)ハ鼻ト眉トカアツマツテシカウタソ」(『史記抄』十一巻「范蔡」:「蹙齃(シュクアツ)」という漢語の説明をしている。「しかうた」は、しかむだ→しかみた)。

「萎えしかみたる狩衣(かりぎぬ)姿なる男」(「御伽草子」:これは皺(しわ)だらけになっているということ)。

◎「しかめ(顰め)」(動詞)

「しかみ(顰み)」の他動表現。なにかを「しかみ(顰み)」の状態にすること。→「しかみ(顰み)」の項(上記)。

「Xicame(シカメ), uru(ムル), eta(メタ). ¶ Idem.  Vt. Fanao(ハナヲ) I(同じく?), cauouo(カオヲ) xicamuru(シカムル). Item, Mostrar agastamento, ou desprazer dalgua cousa fazendo rugas(しわを作り苛立ち、または不快感を示す)」(『日葡辞書』:「Idem(同じ)」とありますが、これはこの前にある「Xicamaxe(しかませ)」という語のことでしょう)。

「顔をしかめ」。