◎「しかつべらし」(形シク)
「しかといむめらああし(然と忌む女らああし)」。「ああ」は、呆れたような、嘆声。しっかりと用心深く対策する女がうんざりさせるように、の意。あまりにも忌みに忠実で息苦しかったりあまりにも用心深く疎(うと)ましかったり(さらには不快であったり)することをからかうように言っている。「しかつめらし」とも言う。「しかつべし」とも言う。これは「しかといみめめし(然と忌み女女し)」。これは江戸時代以降の語でしょう。
「夫(それ)馬鹿の名目(みやうもく)一(いつ)ならず…………………若し此書を取てしかつべらしく讀む者あらば、それこそ眞のたはけにあらずや」(『風流志道軒伝』)。
◎「しがない」(形)
「しげはない(茂葉無い)」。何も茂らない、なんの実りもない、ということ。酷似した表現で「しげない」がある(過去にすでに触れた)。「しげない」は「しげ(茂)」がない。
「しがない活(くら)し」。
「しがねえ恋の情けが仇(あだ)、命の綱の切れたのを…」(「歌舞伎」)。
◎「しかばね(屍)」
「しひかばね(廃ひ屍)」。「かばね(屍)」という語は死体の尊称であり(その項・2021年5月15日)、そこに魂(たましひ)の根があるような表現です。「しひ(廃ひ)」は無機能化することを意味しますが、その魂の力がすべてなくなり、無機能化してしまった死体が「しひかばね(廃ひ屍)→しかばね」。「しにかばね(死に屍)」という語もある。「しぬ(死ぬ)」とは魂(たましひ)がなくなることであり、意味は酷似しています。
「『…すみやかに、今は、いさめる(勇める)獣(けだもの)に身を施(せ)し、深き谷にしかばねをさらしてむ』と申して、もとの山にまかり籠りにし」(『宇津保物語』)。
「天皇勅 捨彼屍骸於城之外 而燒末 散河 擲海 (訓釈)屍骸 二合 死ニカハネ (天皇勅して、かの屍骸(しにかばね)を城(みやこ)の外に捨てて、焼き末(くだ)きて河に散らし、海に擲(なげう)つ)」(『日本霊異記』)。