◎「さへぎり(遮り)」(動詞)
「さへきいり(障へ来入り)」。障害的に入ってくること。「人をほろぼし、身をたすからんとおもふ悪心のみ遮(サヘギリ)て、善心はかつて発(おこ)らず」(『平家物語』)。「悲しみは眼(まなこ)にさへぎりて雲のごとくに…」(『海道記』)。
この「さへぎり」が、「さへ(障へ)」が、「きいり(来入り)」を動態形容するのではなく、動態の主となり表現されると、現実実効的に障碍を生じさせ、なにかを阻止・遮断し、という意味になる。たとえば、上記「悲しみは眼(まなこ)にさへぎり」は「悲しみは眼(まなこ)をさへぎり」(ものごとをよく見えなくし)。「行くてをさへぎり」。
この動詞は鎌倉時代以降「さいぎり(遮り)」にとって代わる。
「…都を出でし後は彼処に戦ひ此処に争ひ人を滅ぼし身を助からんと思ふ悪心のみ遮(サヘギリ)て善心はかつて発(おこ)らず」(『平家物語』)。
「『敵前後を遮(サエギッ)て御方(みかた)は陣を隔たり。…』」(『太平記』)。
「(相摸入道が)未明に預人の許へ使者を遣し、『上人嗷問(ガウモン)の事暫く閣(おく)べし』と被下知処に(下知したところ)、預人遮て相摸入道の方に来て申けるは、…」(『太平記』:これは預人が相摸入道の動向に「さへ(障へ)」に入っている。公表される正式決定を予想して、ということでしょう)。
「Sayeguiri(サエギリ), ru(ル), itta(ッタ). Adelantarse, o o anticiparse contra algunna cosa q viene. ¶ Can uo sayeguiru(カンヲサエギル). Resistir a el frio(寒さを防ぐ)」(『日葡辞書』:「Adelantarse, o o anticiparse contra algunna cosa q viene」は、来る何かに対し予想的に先行する、といった意味か)。
◎「さいぎり (遮り・浮り・先行り)」(動詞)
「さききいり」の「き」の音便化なのですが、「さききいり」は「さききいり(割き来入り)」と「さききいり(先来入り)」がある。
・「さききいり(割き来入り)」(遮り・浮り)
「さき(裂き・割き)」は他動的に何かを部分に隔絶させることですが、これが、なにものかの、その意思にかかわらず、その内部へ入る戸を開(ひら)くような意味になる。「(Aを)さききいり(割き来入り)→Aをさいぎり」の場合、その意思にかかわらずこれを割(さ)きこれに来(き)入(い)ることはAに自分の意思では自由にならない夾雑物・異物、邪魔者がはいり、自由が阻害され動態に障害が起こったりこれが阻止されたりすることを表現し(遮り)、また、何らかの意思内容や思いが自分の意思にかかわらず突然自分に現れることも表現する(浮り)。後者は、たとえば「(Aが)目をさいぎり」と言った場合、それは、(Aという)思いがよぎり・思いが浮かび、のような意味となる。
・「さききいり(先来入り)」(先行り)
これは、先に、他にさきだって、入って来る、ということであり、他に先行することを意味する。
・この「さいぎり」という語は、後(のち:鎌倉時代かその少し前頃)、この語の影響と「さへ(障へ)」の影響により「さへぎり(遮り)」が生じこの「さいぎり(遮り)」に取って代わっていく。ただしそれは「遮り」のそれがとって変わるのであり、「浮り」や「先行り」のそれは用いられなくなり死語や古語になる。「目をさいぎり」は「目に浮かび」、「さいぎって(褒美を)戴(いただ)いた」は「他の誰よりも先に御褒美をいただいた」といった表現になる。
「筑紫国造(つくしのくにのみやつこ)磐井(いはゐ)陰(ひそか)に叛逆(そむ)くことを謀(はか)りて………新羅(しらぎ)是(これ)を知りて密(ひそか)に貨賂(まひなひ)を磐井が所(もと)に行(おく)りて………是(ここ)に磐井……外は海路を邀(た)へて(待ち受け遮り)……内は任那(みまな)に遣(つかは)せる毛野臣(けなのおみ)の軍(いくさ)を遮(さいぎ)りて……」(『日本書紀』継体天皇二十一年六月:これは、障害となり妨害し、の意)。
「遮 …サイキル サマタク サハル …」「邀 ……サイキル…」(『類聚名義抄』)。
「目ニサイキリ耳ニミテレトモ(満てれども)ヲトロク(驚く)心ナクシテ…」(『(米沢本)沙石集』:これは、目に浮かび、のような意)。
「行 …ユク…………………ナカル(流る)……サイキル…」(『類聚名義抄』)。
「Saiguiri(サイギリ), iru(イル), itta(イッタ). ¶ Menisaiguiru(メニサイギル). Represetarse alguna cosa a la vista(目に見えているものを現す)」(『日葡辞書』:これは障碍的に来る、の意)。
「Saiguiri(サイギリ), ru(ル), itta(ッタ). Anticiparse(先行する). ¶ Saiguitte gojoni azzucaru(サイギッテ ゴジョウ(御状)ニ アヅカル). Recebir carte de ante mano de persona alta(高位の人から事前に手紙を受け取る). …… Melius(より良い). Sayeguiru(サエギル). Vide iufra(下記参照)」(『日葡辞書』:これは、先行する、の意。この「Sayeguiru(サエギル).Vide iufra(下記参照)」に関してはここでは上記「さへぎり(遮り)」の項にある。以上『日葡辞書』、()内の読みや訳は原文にはない。また、原文にはロングエスが入ったり発音区別符号のついたアルファベットが用いられたりしている)。