◎「さばよみ」

「サンはばよみ(算幅読み)」。「サンはば(算幅)」は計算の幅、ということですが、計測や計量、それに伴う計算、の誤差の範囲、ということです。「算幅(サンはば)」自体は一般的に成立する表現でしょうけれど、「さば」は「さばをよむ(さばを読む)」「さばよみ(さば読み)」という表現でしか用いられていない。「よみ(読み)」はこの場合は総数を知ることであり、数えることです。誤差の範囲であり許容されると思う範囲で計算結果、測定結果を判断し、出すこと。たとえば女の年齢を数える場合、このくらいは社会的に許容されている誤差の範囲だろうと思われるその誤差を許容しつつ数える。「さばをよむ」という言い方もする。

この語は、魚の鯖(さば)を数えることと解することが相当に一般的におこなわれています。鯖(さば)は死んだ後の質の劣化が早いので急いで数え、数え方がいい加減になるそうです。しかし、現実の場面で、鯵(あぢ)や鰯(いわし)と数え方にそれほど特異的な違いがあるとは思われない。

「ふたつづつよむ(数える)をば鯖読(さばよみ)と云事あり」(『名語記(ミャウゴキ)』1275年成立)。

「外へは年をかくし、節分の大豆も鯖読(さばよみ)にして」(『男色大鑑』)。

 

◎「さばへ(五月蠅)」

「さばはへ(騒蠅)」。「さば(騒)」は「さばめき(騒めき)」の項(下記)。「さばはへ(騒蠅)→さばへ」は、無数に群がりたかり無秩序に騒擾するように飛び交う蠅。

「是(ここ)に萬(よろづ)の神(かみ)の聲(こゑ)は、狹蠅那須(さばへなす) 此二字以音 滿(み)ち、萬(よろづ)の妖(わざはひ)悉(ふつく)に發(おこ)りき」(『古事記』)。

「五月蝿(さばへ)なす 騒(さわ)く子どもを…」(万897:これは、病床の作者が、この子たちを残しては死ねない、という思いになっている歌であり、単純に、煩わしい、と思っているわけではない)。

ただし、「ささ(細・小)」の影響でしょう、後世では小さな蠅を「さばへ」と言い、「小蠅」と書いて「さばへ」と読んだりしている。「此時十千(トチ)ノ悪神(アラフルカミ)は小蠅(サハエ)トなつてうせ」(『太平記』(神田本):「小蠅」と書かれますが、これも無数に群がる蠅ではある)。

 

◎「さばめき」(動詞)

「さば」は「せあわみま(瀬泡見間)」。「さわんま」のような音(オン)を経、「さば」になる。「せあわみま(瀬泡見間)」は、泡が沸き立ちながら急流になって流れる状態を見ているその時間域。「めき」は「春めき」その他のそれ。めまぐるしく動き回りつつ現れては消え無秩序な音も発する。「さばめき」は、ものごとがその「せあわ(瀬泡)」を見ているような状態であること。無秩序な騒ぎが起こっている。

「處處(ところところ)の海人(あま)訕哤(さばめ)きて命(みこと)に従(したが)はず。訕哤、此云佐麼賣玖(さばめく)」(『日本書紀』)。